現職閣僚である国家公安委員長は、なぜ退任するのか
6月25日。菅義偉首相の側近の一人である小此木八郎・国家公安委員長が出席する最後の閣議となった。小此木氏はこの日辞表を提出、横浜市長選への出馬を表明した。
新型コロナウイルスへの後手後手の対応などで支持率低迷にあえぐ菅政権。何とか東京五輪を開催したいとする菅氏にとって、警備を担当する現職閣僚である国家公安委員長の小此木氏の退任は政権運営にも懸念されるなど少なからぬダメージがあったに違いない。
それ以上に菅氏にとってショックだったのは、官房長官時代からの腹案だったカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致に、小此木氏が反対すると表明したことだっただろう。小此木氏が一介の自民党議員だったら横浜市長選に現職閣僚が出馬してもそうマスコミに取り上げられることはなかっただろう。
しかし、小此木氏となると話は違う。「小此木氏の父親である彦三郎氏は菅氏が秘書としてずっと仕えてきた人物。横浜に縁もゆかりもない菅氏が自らの拠点を横浜に置けるのもすべて小此木氏の後ろ盾があったから」(自民党中堅幹部)という間柄だ。
「IR誘致」は横浜市長選の争点ですらなくなった
菅首相にとって「師」にあたる小此木氏の息子が、菅氏の掲げるIR誘致に、反対を公約にして立候補するというわけだ。5月下旬に「横浜市長選に出馬する。IR誘致は取りやめる」と小此木氏から告げられた菅首相は長い沈黙の後、「分かった」とだけ答えたという。
横浜市長選には菅氏の後ろ盾を得ていた林文子現市長も4選を目指して立候補する予定だが、「これまでのIRを巡る議論での迷走ぶりを考えると林氏では厳しい。多選に対し菅首相も難色を示している」(同)という。
長野県の元知事であった田中康夫氏も立候補を表明しているが、いずれの有力候補はIR誘致に反対している。自民党は「IR誘致賛成」の有力候補を探していたが、小此木氏の立候補ではそれは難しくなった。つまりIR誘致は横浜市長選の争点ですらなくなったということだ。
横浜市をはじめ、どの自治体からも反対されているにもかかわらず、なぜ政府はIR法を成立させて、IR誘致を推し進めるのか。経緯をたどると、トランプ米大統領(当時)との関係が浮かび上がってくる。