「日本はずし」を封じ込めるための「カジノ」だった

「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」を掲げ、ラストベルトと呼ばれる米北東部の鉄鋼や自動車など製造業者などから強い支持を受けていたトランプ政権に対し、日本政府は強い危機感を抱いていた。地元産業を保護するために、日本製の自動車への関税引き上げや部品などの現地調達をちらつかせる「日本はずし」とも受け取れる言動を繰り返していたからだ。

その動きを封じ込めるための懐柔策の一つとして持ち上がったのが「カジノ」だった。

トランプ氏が大統領就になった際、安倍晋三首相(当時)が各国を差し置いて会談できたのは、トランプ氏の大物スポンサー(大口献金者)である米国のカジノ王、シェルドン・アデルソン氏の存在があったからだといわれる。

マカオのCasino Lisboa(2013年9月11日)
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アデルソン氏はカジノ大手ラスベガス・サンズの創業者。海外ではマカオやシンガポールでも事業を拡大させており、さらなるターゲットとして「アジアでのラストリゾート」と言われる日本市場を狙っていた。

アデルソン氏はコンピュータ業界の最大の見本市である「コムデックス」の生みの親でもある。1995年に約830億円で売却し、その売却益をカジノ事業に注ぎ込み、大成功した。コムデックスの売却先が孫正義氏が率いるソフトバンクだったのだ。

安倍首相がトランプ氏にいち早く面会できたのも、このアデルソン氏のルートを使ったものとみられている。

サンズは昨年5月に日本でのカジノ進出を断念

米国の「日本車締め出し」を恐れた日本政府は、トランプ氏の後ろ盾であるアデルソン氏の意向を受ける形でIR法案の成立を急ぐことになる。その時の官房長官としてIR法案成立に並々ならぬ意欲を示していたのが横浜市を地盤に持つ菅首相だ。

ただ、そのIRも新型コロナウイルスの感染拡大が一向に収束しないなか、今は風前の灯火だ。

結局、アデルソン氏の率いるサンズは、横浜をはじめとする日本でのカジノ進出を昨年5月に断念。アデルソン氏もトランプ政権の退陣と時を合わせるように今年1月に死去した。

「外交上の要請」もなくなり、コロナ感染でIR誘致どころではないはずだが、依然として執念を燃やす地域がある。和歌山県と大阪府だ。