世の中にある様々なプロセスは3点の原則に基づいている

2つ目のポイントは、期限を必ず定めること。主張する機会の保障は重要ですが、期限を決めないと延々と議論が続いて物事が決着しなくなります。新聞社などのマスコミや、一部の学者はよく「議論が尽くされていない」「もっと協議を続けるべきだ」と主張します。彼ら彼女らは議論をすることが仕事ですから、2年でも3年でも、あるいは10年でも、延々と議論しても何の問題もありません。しかし、現実の実務をしている人たちは、仕事には必ず納期があるわけですから、期限を定めなければいけません。

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写真=iStock.com/kazuma seki
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3つ目は、リーダーなどの判断権者はいずれの主張の「当事者」にも加わらないこと。これは、裁判においては当たり前のことです。裁判官が、原告、被告のどちらかの当事者に加わってしまったら、公正な裁判は成り立ちません。行政やビジネスの場合も、適切な手続きだと多くの人から信頼してもらうためには、判断権者は片方に与することなく、中立的な裁判官のような役割を担うことが必要です。

実は、世の中にある様々なプロセス・手続法は、以上の3点を原則にしています。民事手続法や刑事手続法は複雑そうな取り決めに見えますが、この3点の原則に基づいて細かくルール化しているだけです。

なぜ実現不可能と言われた大阪府の財政再建は成功したのか

僕は、2008年に大阪府知事に就任後、大阪府の財政再建をする際には、3つ目のポイントを意識して「裁判官役」に徹しました。毎年約1100億円もの収支改善を成し遂げるために、府の予算を徹底的に見直す財政再建プロジェクトチームを作り、そこに精鋭を集めました。ただし、僕はプロジェクトチームには入りませんでした。

財政再建プロジェクトチームの精鋭たちに対峙するのは、予算を要求する各部局の役人たち。大阪府庁の各部局を支えている人たちで、同じく実力者揃いです。そして、判断権者である僕と副知事はどちらの側にも加わらずに裁判官の席に立って、予算見直しの財政再建プロジェクトチームと予算要求の部局チームに、目の前で議論させました。

手続的正義の観点から、みんなに傍聴してもらうことが重要だと考え、フルオープンの場でガチンコの議論を戦わせました。まったくシナリオなしです。

予算見直し財政再建プロジェクトチームは、「これは必要ないのではないか」「これも無駄ではないか」と鋭く切り込み、対する各予算要求部局の担当者たちは「この予算はこういう理由で絶対に必要だ」と主張しました。僕は、当事者同士の議論には一切口出しせず、黙って聞いていました。