「かくあるべし思考」「完全主義」はうつ症状を引き起こしやすい

現在の精神医学では、同じストレッサーを受けた際、強い心の変調をきたしたり、逆にそれほどひどい心の変調をもたらさなかったりするのは、ものの見方、受け止め方の違いによるとされている。

現在、うつ病のカウンセリングの主流となっている認知療法は、うつになりやすい認知パターン・思考パターンを、なりにくいものに変えていくことを基本コンセプトにしている。

心に悪い思考パターンの一つに、「かくあるべし思考」とか「完全主義」というものがある。もちろん、こうした自分に厳しい姿勢があるから大坂さんも世界のトッププレーヤーになり、深田さんも長年トップスターでいることができたという側面はある。

しかし、自分は常に勝たないといけないとか、誰からも称賛される演技をしなければならないとかいった「かくあるべし」があると、プレッシャーのほうもどうしても強くなる。

そこで、たとえば治療場面では「あなたは一流選手で身体能力も高いから多くの試合に勝てるけど、たまに負けるのは自然なことだと思うよ」とか「人間、一人ひとり受け止め方が違うから、誰もが認めるなんてことは不可能だと思うよ」のような形で、完全主義やかくあるべし思考を緩和していく。

100点でなければ許せない、だから99点でも0点と同じ

「かくあるべし思考」「完全主義」の思考パターンに「2分割思考」が加わると、さらにうつ病になりやすくなるとされている。

2分割思考というのは、味方でなければ敵、正義でなければ悪、というふうに物事に中間を認めず、2つにすっぱり分けてしまう思考パターンだ。

この場合、たとえば味方と思っていた人が、ちょっと自分の批判をしただけで、敵になったと思ってしまう。100%味方なのが80%になったとは考えない。

ブルズアイに的中したダーツの矢
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だからうつになりやすいわけだが、それ以上に完全主義者が2分割思考も併せ持っている場合、100点でなければ許せないわけだから、99点でも0点と同じように感じてしまう。

これはものすごいプレッシャーになるし、うつになりやすいのは言うまでもない。

私は医療の傍ら、長年大学受験の指導をしているが、満点主義より合格点主義(合格最低点を取ることが目標)にしたほうが不思議と合格の確率も高まり、受験の際のプレッシャーも緩和でき実力を発揮しやすい。

わが国の最難関・東京大学の理科3類(医学部)の場合、大学共通テストのあとの個別(2次)試験は難しい問題が多いとはいえ、440点満点中290点(正解率約66%)とさほど高得点でなくても合格できる。