90年8月のIOC東京総会の際には、IOC委員の夫人たちのために、日本橋三越でのショッピングが企画された。招致委員会が宿泊先のホテルと三越間のシャトルバスの運行や割引券までサービスし、長野県職員が付き添っていたことがうかがえる資料も残されていた。
過剰接待ぶりが際立つのが、91年1月、開催候補都市の現地調査のためにホルスト・ソレンセンIOC委員を筆頭とする7人が長野を訪れた際だ。
ソレンセン委員は来日前、「旅費はIOCが負担するので、招致委員会には宿泊費だけを負担してほしい」という趣旨の文書を送っていた。だが、実際には、宿泊費だけでなく、航空券やヘリコプター代、レセプション費、ホステス謝礼などを招致委員会が負担した記録が残っている。その総額は2880万円に及んでいた。この時、ソレンセン委員の夫人も同行しており、夫人にかかる費用も負担。調査後には夫妻のために宴席を設け、宿泊代などを含め、別途約310万円をかけてもてなされたと、報告書はまとめている。
こうした招致活動を巡る過剰接待が明らかになったことを受け、IOCの広報部長(当時)は2006年、「IOCは貴重な教訓を得て、招致のシステムを刷新した。調査は既に完結しており、過去のこととして線を引いている」と述べ、新たな調査は行わないことを明らかにしている。
それから十余年。東京五輪を前に、IOCは「過去」と決別できているのだろうか。五輪を研究する米パシフィック大学のジュールズ・ボイコフ教授は「五輪貴族は快適なジェット機で飛んできて、五つ星ホテルで優雅に滞在し、祭典が終われば帰るだけ」と、IOCのあり方を厳しく批判している(6月3日、朝日新聞)。
後藤さんはこう語る。
「今度の東京五輪でも、IOC委員は競技に出るわけでもないのにわざわざやってきます。IOCの連中は、いまでも貴族のままです」
(AERA dot.編集部 岩下明日香)