福島第一原発(イチエフ)の廃炉作業には1日約4000人がかかわっている。敷地内で作業員の食事を出す「給食センター」ができたのは2015年のこと。そこで働く栄養士や調理師は、なぜイチエフを職場に選んだのか。ノンフィクション作家・稲泉連さんの著書『廃炉 「敗北の現場」で働く誇り』(新潮社)より、一部を抜粋して紹介する――。
東京電力福島第一原子力発電所の大型休憩所の食堂で食事する東電と協力企業の社員ら=2015年6月1日、福島県大熊町[代表撮影]
写真=時事通信フォト
東京電力福島第一原子力発電所の大型休憩所の食堂で食事する東電と協力企業の社員ら=2015年6月1日、福島県大熊町[代表撮影]

食堂ができて、ようやく「普通の現場」になった

12時00分──。

福島第一原発の一日の中で大型休憩所が最も賑わうのは、誰もが想像する通り昼食の時間帯だ。

とりわけこの現場で長く働いている作業員や東電の社員にとって、休憩所内に食堂が完成した日の喜びは忘れ難いものだと言えるだろう。

Jヴィレッジに戻るまで食事はおろか、水分さえまともに補給できなかった事故の初動時。通勤時にいわきの市街地や国道沿いのコンビニで弁当やおにぎりを買い、それを冷えたまま食べることの多かった日々──。例えば、私が知り合った廃炉現場で働く人の中には、「現場が大きく変化した瞬間を一つ挙げるとすれば、大型休憩所でまともな食事がとれるようになったとき」と、4号機の使用済燃料取り出しなどよりも大きなインパクトがあったと語る者もいた。

2018年2月まで東電廃炉推進カンパニーのトップだった増田尚宏は、「イチエフを普通の現場にする」を合言葉にしていた。その意味で食堂の設置は、労働環境が「普通」になってきた、とようやく多くの作業者が感じた象徴的な出来事だったのである。

肉、魚、麺、丼、カレーの5種類はすべて380円

現在、イチエフには大型休憩所の他、東電社員の働く新事務本館など3カ所に食堂があるそれらを運営している「福島復興給食センター」は、トヨタ自動車の社員食堂も運営する名古屋のケータリング大手・日本ゼネラルフードと、地元企業の鳥藤本店の合弁という形をとっている。

原発構内の食堂で提供される食事は帰還困難区域である大熊町の調理施設で作られ、およそ2000食分の料理が1日4回に分けてトラックで運ばれる。メニューは「5定食」と呼ばれる形式で、昼は「A定食」(肉)、B定食(魚)、麺定食、丼定食、カレーの5種類。値段は全て380円だ。とりわけカレーの種類の多さには定評があり、様々なトッピングや「グリーンカレー」などのバラエティを駆使して、約30種類のメニューが日替わりで用意されているというから驚く。

「あのココイチにだって負けていませんよ」

栄養士として給食センターに勤務し、食堂のメニュー作りを担当してきた竹口暁子はそう言って笑った。