鹿島建設の福山哲也さんは「東電福島高線量廃棄物運搬工事事務所」の所長だ。このチームでは福島第一原発(イチエフ)の汚染瓦礫を運んでいる。福山さんは「東京電力からは『低線量』と言われたが、それは違う。ここにある瓦礫は高いか、めちゃくちゃ高いか、の二通りです」という。ノンフィクション作家・稲泉連さんの著書『廃炉 「敗北の現場」で働く誇り』(新潮社)より、一部を抜粋して紹介する――。
クレーンを使って、がれき除去作業が進む東京電力福島第1原子力発電所4号機原子炉建屋。左端は格納容器のふた=2012年10月12日、福島県[代表撮影]
写真=時事通信フォト
クレーンを使って、がれき除去作業が進む東京電力福島第1原子力発電所4号機原子炉建屋。左端は格納容器のふた=2012年10月12日、福島県[代表撮影]

「世の中にこんな仕事をやった人はいない」

福島第一原子力発電所の廃炉作業の現場では、第二章で描いた原子炉建屋の4号機に続いて、2019年4月から3号機でも使用済燃料プールからの燃料取り出し作業が始まった。作業の手順は4号機の時と同じだが、異なるのは今度はそれが遠隔操作で行なわれたことだった(3号機での取り出し作業は2021年2月に完了した)。

この遠隔操作による難しい作業の背後には、様々な土木・建築技術が活用されたオペレーティング・フロアの瓦礫撤去やカバー工事の他に、もう一つ鹿島建設の別グループによる欠かせない仕事があった。それがイチエフの夜に瓦礫を運搬する「東電福島高線量廃棄物運搬工事事務所」の働きだ。

同事務所の所長である福山哲也に、私が話を聞いたのは2018年5月のことだった。彼がイチエフの現場に異動したのは2013年4月、それまでは工事管理や通称「東京土木」と呼ばれる東京都内の現場を渡り歩き、洪水調節施設や高速道路のジャンクションの現場工事にかかわってきた。原子力関連の仕事をした経験はなく、福島第一原発への異動は寝耳に水の出来事だったという。

ある日、上司に呼ばれてイチエフへの赴任の内示を受けた際、彼は思わず「そんなのやったことがないし、分からないですよ」と弱音を吐いたと振り返る。

「でも、上司には『世の中にこんな仕事をやったことのある人はどこにもいないから』と言われましてね。その言葉を聞き、半ば開き直ったような気持ちでこの現場にきたんです」