限られた重機と時間の中で行った工夫

福山の2013年の就任以来、この瓦礫運搬の作業にも様々な工夫がなされてきた。

まず、建屋近くの瓦礫置き場からの運搬には、放射線を防護した運搬車が線量ごとに使用されてきた。また、瓦礫をコンテナに入れる油圧ショベルも二種類あり、一つはラジコンのように遠隔で操作できるもの、もう一つはオペレーターの乗るキャビンを分厚い鉄板で覆ったものだ。後者は「遮蔽対策重機」と呼ばれている。

比較的、放射線量の高くない瓦礫については、37トンほどのダンプを使用してきた。それだけの重量の巨大ダンプなのは、オペレーターを被曝から守る鉄板だけで10トンの重さがあるからだ。

専用に開発された運搬用の重機の中には、車両のガラス部分にフランスの企業が数カ月間圧力をかけて密度を高めたガラスをはめ込み、内部は与圧をかけて外から埃が入らないようになっているものもある(車両の価格の6割がガラス代というのだから驚く)。

そして、鹿島建設の瓦礫運搬チームの主役と言えるのが、原発の北西にあるコンテナの置き場から、地下の格納庫にそれを運び込む無人の「クローラーダンプ」と「フォークリフト」だ。

クローラーダンプはキャタピラのついた重機で、免震重要棟の一室からモニターを見ながら操作をする。これは単に遠隔操作ができるだけではなく、GPSなどで自らの居場所と障害物を検知しながら自動でも動く半自律走行車となっている。

このクローラーダンプは日本の自然災害の歴史が生み出した重機で、もととなるモデルが開発されたのは雲仙普賢岳での噴火災害の現場で使用するためだった。

「ただ、こうしたものをラジコンで遠隔操作する作業は、オペレーターの神経があまりにすり減る過酷さがあるんです。1個か2個のコンテナならいいのですが、モニター越しに操作を続けていると、人間の感覚がもたないんですね。よって、例えば単純に真っ直ぐ走るといった箇所については、ある程度の自動走行を可能にする必要があったんです」

ところが、フォークリフトを用いる地下の倉庫ではGPSを利用した制御ができない。そこで同社が活用したのがレーダーによるスキャナーだった。障害物をあらかじめ探知して建物の地図を機械に覚えこませておくことで、地上から地下へとシームレスに移動できるようにしたわけだ。

「工場のように走行路を作れればいいのですが、格納庫の中は高線量になってしまうので、後でメンテナンスができないんです。だから、フォークリフト一台で全てを完結させないといけなかった。もちろん2年、3年かけてじっくり開発をすれば、もっとスマートなものが作れる可能性もあったでしょう。しかし、ここでは時間がなかった。それこそ半年で瓦礫の運搬を何とかしろ、という話でしたから。そこで我々は今あるものを組み合わせて、ブラッシュアップする手法をとったわけです」

やりがいに頼る現場の人材の入れ替わりは激しい

また、この一連の作業に欠かせないのが、遠隔で車両を操作できる熟練のオペレーターたちである。私は一度だけ、免震重要棟の一角にある彼らのオペレーティング・ルームを見学したことがある。室内には何台ものモニターが並び、ハンドルコントローラーやジョイスティックが置かれていた。それは熊本地震後のがけ崩れの現場で見た重機の遠隔操作室とも似ており、豪雨や噴火、地震などの自然災害の経験がイチエフの現場で活かされていることが伝わってくる光景だった。

4~5人で構成されるオペレーターのチームもまた、そうした現場で経験を積んだ人たちだ。一個のコンテナの格納にかかる時間は40分~1時間。二人組で慎重にフォークリフトを操作するオペレーターは50代が中心で、以前にも山やダム、長大トンネル、海外の現場で巨大重機を操作してきた「それこそ重機で卵を割らずにつかめる」ほどの歴戦の者たちであった。

格納庫内では直進は緊急停止ボタンに手を置いておくだけだが、実際の積み込み作業になると細かい操作が必要となる。二人で息を合わせ、9台のカメラを切り替えながらの操作は、一目見ただけでもかなり難しそうな作業であった。

福山は言う。

「彼らは腕に覚えのある職人なので、基本的に一匹狼で仕事ができる。その彼らに体の疲労がきつい夜が中心の仕事をしてもらうので、常に人材集めには苦労があります。建設業の人材不足の中で引く手数多のオペレーターたちですから、彼らがイチエフの現場に思いを寄せて残ってくれているのは本当にありがたいことなんです」

瓦礫運搬チームは重機の運転者が約20名いるが、入れ替わりはそれなりに激しい。チームでの仕事に馴染めない人もいれば、家庭の事情で現場を離れる人もいる。事故当初は危険手当が付いたが、構内の労働環境が整ってきた現在は手当の出ないケースも増えている。イチエフで働く上での金銭的なインセンティブが年々減っていく中で、人材の不足は悩みの種であり続けている。自ずと「災害の現場で働くという使命感ややりがい」に頼るようになっていくことは、東電から仕事を請け負う立場の彼らの課題だろう。