「社食」なのに、作業員からのクレームがほとんどない

「この食堂を作るとき、『1カ月、カレーのメニューを被らせないようにしてほしい』と社長から指示されたんです。考えるのが本当に大変だったんですから」

また、廃炉の現場の過酷な“歴史”を窺えたのは、給食センターの社長を務める渋谷昌俊の「この新しい食堂には作業員からのクレームがほとんどないんです」という言葉だった。

「基本的に社食というのは、肉が固い、冷たいといったものから、異物が入っていたというものまで、利用者からの意見が多く寄せられるものなんです。でも、イチエフの食堂ではその種の声がほとんど上がらないんですよ」

ローソンの店長・黒澤が「食べ物の恨みは怖いですから」と話したのは冗談ではなく、食堂ができて彼らは初めて温かい白米や汁物、生野菜や果物を食べられるようになった。「それだけでも有り難い」という現場の雰囲気が、クレームの少なさに反映されているのだろう。

だが、そのような苦情の少なさの背景には、イチエフの社員食堂にかける同社の熱意の大きさもある。何しろこの食堂は、なかなかの充実ぶりなのである。

「イチエフだからこういうものしか出ない」というのは絶対にダメ

竹口によれば人気メニューは揚げものや肉系で、トンカツや唐揚げなど「お子様ランチに入っているようなメニューが大人気」とのこと。そこで2月のバレンタインデーには、「大人のお子様LUNCH」という特別メニューを出した。ハンバーグ、から揚げ、エビフライ、チキンライス、スパゲティの合わせ技、小さなチョコレート付きでカロリーは1200弱。

から揚げを揚げている
写真=iStock.com/kazoka30
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食堂では月毎にこうした「フェア」と呼ばれる期間を設定し、特別なメニューを用意している。栗やサンマなど秋の味覚を打ち出した「秋まつり」、ナシゴレンやタイカレーを組み入れたアジアンフェア、「なごやうまいもんフェア」ではA定食に味噌串カツ、麺定食にあんかけスパゲティ、丼定食としてどて飯を提供し、クリスマスにはフライドチキンを入れ込んだ。

「私たちはここで食堂を始めた時から、『普通の食堂』と同じことがしたいという目標を持っているんです。『イチエフだからこういうものしか出ない』というのは絶対にダメだ、と思ってきました」

と、竹口は言う。

「だから、何でも『美味しい』と言って食べてもらえることに甘えず、自分たちもどんどんレベルを上げていかないと。現場の人たちの舌が肥えてきて、食堂があるのが当たり前になってくれば、いろんな意見が出てくるはず。その声が上がってくる前に、新メニューを開発して飽きさせないよう努力をするのが、私たちの仕事です」

ただ、今でこそ彼女は当たり前のようにそう胸を張るが、2015年に給食センターが稼働するまでには、様々な紆余うよ曲折と彼らの努力があった。