同じ頃、シーカーがまたもややってのけた。彼は中国科学技術部が運営するデータベースのサイトを訪れ、石正麗が監修した全ての論文を検索。すると3件がヒットした。「1回目の検索で見つかった」と彼は言う。「なぜこれまで誰もこの方法を考えつかなかったのかは分からないが、おそらく誰もここを見ていなかったのだろう」

新たに見つかったこれらの論文は、武漢ウイルス研究所がごまかしを続けてきたことを証明していた。研究者たちが、墨江ハニ族自治県の鉱山労働者の死因が真菌(カビ)だったなどと考えてはいなかったことが明らかだった。石正麗がサイエンティフィック・アメリカンなどに行なった説明とは矛盾する内容だ。

研究者たちはSARSウイルスに似た新型ウイルスの感染拡大を心配して、ほかに感染者が出ていないか、銅鉱山の周辺にある複数の村に住む人々の血液検査まで行なっていた。また、パンデミックが発生するずっと以前に、そのほかの8つの類似ウイルスの遺伝子配列を知っていた。公表していれば新型コロナの流行初期に多くの研究者の理解を助けていたはずだが、実際は、DRASTICがその情報を引っ張り出すまで公表しなかった。

バイデン米大統領も再調査に動く

新たな情報が暴露され、サイエンス誌に公開書簡が発表されてから数日以内に、さらに多くの学者や政治家、主流メディアまでもが研究所流出説を真剣に受け止め始めた。そして5月26日、ジョー・バイデン米大統領が情報機関に対して、「我々を明確な結論に近づけるような情報の収集・分析に改めて励む」よう命じた。

「アメリカは同じような考え方を持つ世界のパートナーたちと協力して、中国に対して全面的で透明性のある、証拠に基づく国際調査に協力するよう圧力をかけ、また全ての関連データや証拠へのアクセスを提供するよう強く求めていく」と語った。

中国はもちろん強く反発している。彼らが調査に協力することはないかもしれない。だが確かなことは、武漢の研究所がパンデミックの元凶だったのかどうか(そして次のパンデミックを引き起こしかねないのかどうか)について、調査研究が行なわれるだろうということだ。それも、DRASTICのようなアウトサイダーたちが援軍として加わった形で。

「科学はもう、専門家だけの独占領域ではなくなった」と、シーカーは本誌に述べた。「変化を起こすチャンスは誰にでもある」

当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら
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