ダイキン工業、アサヒは「嘱託」で再雇用

これに対し、民間の労働者、特に中小企業では給与が減り、雇用の維持すら危ぶまれる厳しい環境に置かれているところが多い。コロナ禍に翻弄されているこのタイミングに、国家公務員の定年を延長し、シニア層雇用に「官高民低」の構造を生む国家公務員法改正案。これに合理的な理由は乏しく、国民の理解を得られるかと言えば、大いに疑問は残る。

実際、現状で民間は60歳定年制を採用する企業が圧倒的に多く、シニア層を正社員に抱え固定費が膨らむ定年延長には二の足を踏んでいるのが実態だ。改正高齢者雇用安定法の施行に沿って企業が打ち出した70歳までの雇用を確保する人事制度にしても、ほとんどは定年後に嘱託社員として再雇用するケースが多い。

この4月にシニア層の継続雇用で人事制度を刷新したダイキン工業、アサヒグループホールディングスはいずれも従来65歳だった上限を、改正高齢者雇用安定法の施行に沿って、最長70歳まで引き上げた。しかし定年延長でなく、両社ともに嘱託社員としての再雇用の形で就労機会を確保するにとどまった。

アサヒグループホールディングス
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サントリー、明治安田生命も定年延長ではなく嘱託再雇用

2019年度に生命保険大手でいち早く65歳定年制を導入した明治安田生命保険もこの4月に、併設する60歳以降の嘱託再雇用を65歳から最長70歳に引き上げた。

同じくすでに65歳定年制を導入しているサントリーホールディングスも2020年4月に定年を迎えた後も70歳まで働ける再雇用制度を設けた。

65歳定年でシニア層雇用の先を行く明治安田生命、サントリーにしても、一気に70歳までの定年延長には踏み込むわけにはいかなかった。

改正高齢者雇用安定法が企業に課す70歳までの就労機会の確保をクリアするには定年廃止、定年延長、再雇用延長などいくつかの選択肢はある。

確かに、YKKグループのようにこの4月から正社員の定年を廃止した例はあるものの、多くの企業は固定費増で財務負担を避けるため再雇用を選ぶとみられる。