秋篠宮殿下の言葉
その日、倉田浩伸さんは、胸の高鳴りが抑えきれなかった。
2001年6月21日、秋篠宮夫妻が皇族として初めてカンボジアを訪問。首都プノンペンにある日本大使館で、御接見会が催された。
カンボジアには、かつて「世界一おいしい」と評価された特産品の胡椒があった。倉田さんは、内戦で生産が途絶えたこの胡椒に目を付け、胡椒を復活させるために奔走してきた。その活動が認められて、パーティーへ招かれたのだ。
当日の会場には70人ほどいて、パーティーが始まる前、秋篠宮夫妻の侍従長が参加者ひとり、ひとりから、カンボジアでなにをしているのかを聞き取った。その際、カンボジアの胡椒の話をしたら、侍従長から「殿下は農業に関心があります。ぜひ紹介させてください」と言われた。秋篠宮夫妻と言葉を交わせるのは、侍従長が指定した数人のみ。図らずも、そのひとりに選ばれて、緊張していたのである。
パーティーが始まり、自分の番になると、倉田さんは秋篠宮夫妻に「カンボジアの世界一の胡椒を復活させたいんです」と伝えた。秋篠宮殿下は、「そんなにいい胡椒があるなら、ぜひお土産で買って帰りたいですね」とほほ笑んだ。
そのことを領事に相談すると、「殿下のお土産はいろいろな人が検討して、検品したものしか渡せない」と言われた。ところが翌朝、寝ている時に携帯が鳴った。領事からだった。
「殿下が、胡椒が届かないと仰ってる!」
倉田さんは、慌てた。それまでは胡椒をまとめて日本に輸出していたので、お土産として渡すようなパッケージがなかったのだ。手元にあった胡椒をスーパーの袋に入れてそれらしくラッピングし、殿下が宿泊していたホテルに駆け込んだ。
それから数カ月後、大使館からFAXが届いた。そこには、「とてもおいしかったです、またいただきたいです」という言葉とともに、秋篠宮殿下の署名があった。そのFAXを目にした瞬間、倉田さんの脳裏に電撃が走った。
「そうか、お土産か! 胡椒を輸出するんじゃなくて、お土産として売ってみよう!」