新型コロナウイルスに翻弄される生活が1年以上続いている。ライター・編集者の中川淳一郎さんは「コロナ関連の動向を振り返ると、折々で誰かを『悪者』にしてきたことがよくわかる。人々が本当に恐れているのは、ウイルスそのものではなく、『人間』なのではないか」と指摘する──。
地下鉄でフェイスマスクを着用する通勤客たち
写真=iStock.com/Tim Russell
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当初は「対岸の火事」だった新型コロナ

コロナ騒動が始まってから1年3カ月ほど経過した。その間、何人もの「非常識な不届き者」「現実を理解していない身勝手な輩」とされる人々が登場し、政治家や専門家、各種メディアから批判された。SNSや記事のコメント欄など、ネット上でもやり玉に挙げられ、厳しく糾弾されてきた。

本稿ではそれら“コロナに関連して「悪者」扱いされた人々”を振り返ってみたい。たがその前に、日本におけるコロナ騒動の起こりについて、大まかに触れておこう。

国内の症例第一号は、中国・武漢に帰省した中国人男性で、同氏の父親から感染したと見られている。2020年1月3日に発熱を感じたが、そのまま1月6日に日本に戻ってくる。そして1月15日に確定診断がおこなわれ、翌16日に陽性が発表された。

このころは「中国で父親と濃厚接触」という言葉に対して「父子で“アッー!”な関係なのか?」などとネットで不思議がられるくらい、まだまだ危機感は薄かった。「濃厚接触」とは「ディープキス以上」だと解釈されていたのだ。ほどなく武漢在住の日本人がチャーター機で帰国し、ホテルで隔離されたりしたが、当時はまだ「自分たちは渡航歴がないから大丈夫」といった空気だった。なにしろ安倍晋三首相(当時)が、春節に合わせて来日する中国人観光客を歓迎するような発言をしていたくらいだったのだから、緊張感はなかったといえよう。

志村けんさんの逝去で危機感が一気に高まる

そして2020年2月、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」号で陽性者が出て横浜港に停泊を続けた際、アメリカメディアから「日本の対応は悪い例として教科書に載せてもよいレベル」などと酷評された。この時期になると「ムムム? もしかしてヤバいウイルスなのでは?」といった印象も生まれ始め、イタリアで感染者数が激増して病院がパニックに陥っている映像を見せられるころには、「恐怖のウイルス」というイメージが人々の心に染み付くようになった。

「コロナはヤバ過ぎるウイルスだ!」という印象が決定的になったのは、2020年3月29日、コメディアンの志村けんさんがコロナで亡くなったことだ。私が当時書いたエッセイを読み返すと、自分は4月の第2週にマスクを付け始めた、と書いてあった。私の装着開始は遅かったため、すでに東京では4月の第1週には9割以上の人がマスクを装着していたと見てよいだろう。それだけ、志村さん逝去の影響は強かった。