人々が恐れているのはウイルスではなく「人間」

2021年4月13日、大阪府内の新規陽性者数が初めて1000人を超えたと報じられ、同18日には1220人に。これは4月11日の「だんじり入魂式」のせいにされるだろう。「だんじりの準備のために、4月に入ってから多くの人が『密』な場所にいた」と。現に「歓楽街のコロナ軽視、だんじり祭りの入魂式の打ち上げ等が1番の理由」というツイートもあった。

コロナの変異株が、従来のものに比べて若者や子どもにも感染しやすい傾向が見られるとされることから、陽性者数1000人超えに合わせるようにして、大阪府の吉村洋文知事は小中高における部活動の原則休止を要請。ついに「子ども」まで悪者にし始めた。日本医師会の中川俊男会長も「休校の検討が必要」との声明を発表している。

だが、「変異株は子ども・若者にも広く感染し、彼らが家庭に持ち込んで高齢者にうつす」といった、専門家や政治家がしきりに述べる定説には違和感がある。大阪府が発表したデータを見ると、2020年6月14日~6月27日の集計では陽性者の87%が「40代未満」だった。ところが2021年3月21日~4月3日は57%、2021年4月4日~13日は51%だった(参照した棒グラフの目盛りが10%刻みのため、パーセンテージは1%ほどズレているかもしれないが)。明らかに若年層の割合は減っているのだ。子ども・若者悪玉論は、もう苦しくないか?

結局、コロナ対策では折々で「悪者」を仕立てあげてきたので、人々はコロナウイルスよりも「人間」が恐ろしくなってしまった。これがさまざまなコロナ騒動の本質なのである。

タクシー運転手が嘆息交じりに語ったこと

2021年4月15日に放送された「めざまし8」(フジテレビ系)の番組内で、出演者のタレント・遼太郎が、コロナ陽性と診断されたことが永島優美アナによって発表された。

神妙な表情でこのことを伝える永島アナに続き、事務所の先輩だというMCの谷原章介は「残念。僕自身ももっと気を引き締めていきたいです」とこれまた神妙な表情でコメントした。このとき「おいおい、気合いでなんとかなるのかよ」と思うとともに、「こりゃー『コロナに感染するのは気の弛みがある証拠』論が一生終わらないんじゃねーのか?」と暗澹たる気持ちになった。

そして現在、もっとも悪者扱いされているのは「外に出る人」と「会食」だ。「人流を減らすことがとにかく大事」としきりに叫ばれるなか、4月21日の「モーニングショー」(テレビ朝日系)では、「過去に自分が感染したことがあるにもかかわらず娘と会食に出かけ、娘が感染してしまった母親」と「過去に同居する男性が感染したのに、会食をして感染した女性」が登場。「身近な人がそんなことになったのに危機感を持たず、まったく懲りていないどうしようもない連中」扱いされていた。もはや会食は反社会的行為なのである。

ひとたび悪者にされてしまったら、もうたまったもんじゃない。先日、東京でタクシーに乗った際に、運転手から次のような話を聞いた。

「私たちは、初期のころから『タクシーが危ない』なんて指摘されてきたので、会社から感染対策を徹底的に叩きこまれています。『経路不明の感染』とされる事例では、釣り銭のやり取りが原因になっている可能性もあるというから、お客さんにはできるだけ電子マネーで支払ってもらいたいですね。小銭のやり取りをしたあとは、必ず消毒液を手のひら全体につけて、乾燥させるために10秒ほど手を広げておかなくちゃいけないんです。すぐに発車したいのですが、これがルールなのでね。最初に悪者にされてしまったから、どうしても世間の目が怖くなりますよ。あの屋形船以降、タクシー乗務員のあいだでクラスターが発生したなんて聞きませんし、私の同僚にもコロナに感染した人はいないのにねぇ……」