コロナ騒動初期の悪者は屋形船とタクシー運転手

日本におけるコロナ騒動の初期の様子をおさらいしたところで、続いては「悪者」になった人々を振り返ろう。

初期のころ、やり玉に挙げられたのは「屋形船」だった。2020年1月18日、東京のタクシー組合の新年会が70人規模で屋形船にて開催された。ここで乗船客と従業員9人のクラスターが確認されたのだ。屋形船の運営会社には誹謗中傷の電話や脅迫文が送られる事態になった。屋形船ではカラオケもおこなわれるなどしていたが、それらもクラスターの原因とされた。

そこで陽性となった屋形船従業員が、中国・湖北省からの観光客と接触していたことを証言。さらに「タクシー運転手ならば中国人も乗せていたはずだ」といった憶測も加わり、次の悪者として「タクシー運転手」が注目されるようになっていく。各タクシー会社はすぐさま従業員のマスク着用徹底を呼びかけたほか、前後の席の間に仕切りをつくり、窓を常時すべて開けるなどの対策を採った。このころからテレビに医師や研究者といった感染症の専門家が次々と登場するようになり、時代のヒーロー、ヒロインになっていく。

アクティブな老人、ライブハウス、オレコロナ男…新たな悪者が続々出現

いまではすっかり「若者」が悪者にされるのが当たり前になっているが、ダイヤモンド・プリンセスに乗っていた客の多くが高齢者だったことから、当初は「カネとヒマのある高齢者」が悪者にされていた。2020年2月末、千葉県の70代女性が発熱を自覚していたにもかかわらず、バスツアーで富山や岐阜に出かけたことが明らかになった。女性は後にコロナ陽性が確認された。さらに、クルーズ船に乗っていた60代男性が自宅待機の命令を無視してジムへ行くなどし、陽性が明らかになった例も。こうしたことから「アクティブにもほどがある」とあきれられ、ネットでは「アクティブジジイ」「アクティブババア」と揶揄やゆされる存在になった。

次にやってきたのが「ライブハウス」叩きである。2020年3月上旬、大阪のライブハウスでクラスターが発生。ライブハウスは音漏れ防止のために窓がなかったり、地下にあったりするため、換気効率はあまりよくないケースもある。とはいえ、改善策を講じた施設も含めて、十把一絡げに悪者扱いされた。大阪の例でいえば、国内各地から客が訪れていたため、「この店舗のコロナウイルスが全国に拡散した」などと吊し上げるような論調で紹介するメディアもあった。ライブハウスは「不要不急」の象徴のように扱われ、怪しげなアングラ感も手伝い、すぐさまネット上でバッシングが加速した。

客席には撮影スタッフのみのライブ公演
写真=iStock.com/rrvachov
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ライブハウスもその動きに呼応。無観客運営に切り替えるといった形で対処したものの、演劇でもクラスターが発生するなどしたため、ますます立場は悪くなっていった。なお、私は2020年3月18日、新宿のロフトプラスワンで登壇者3人による動画配信のみの無観客トークイベントをおこなっている。予定されていたイベントが軒並み中止になっている窮状を鑑み、「ノーギャラで配信収益は全額店に渡す、という条件であれば」と参加した。当時は出演者のあいだにアクリル板はなかったし、フェースシールドやマスクもしていなかった。

同じころ、なぜか愛知県で増殖したのが「オレコロナ男」である。商業施設などで「オレコロナ!」と叫び、ベタベタとそこらへんを触ったりしたので、消毒のため営業を止めるといった実害があった。また、「ウイルスをばらまいてやる」とまわりに宣言したうえでフィリピンパブを訪れた愛知県蒲郡市の「オレコロナ男」は、開店前にやってきて店の入り口近くの椅子でしばらく寝たあと、ホステスを触ったり抱き寄せたりするなどやりたい放題。同店では入口の近くにいたホステスが陽性者となった。肥満体型だったというこの57歳男性は、後に亡くなっている。