日本の病床数は人口当たりで世界一を誇る。それなのに、なぜ「コロナで医療崩壊」という事態に陥ったのか。ジャーナリストの鳥集徹さんが、医師の森田洋之さんに聞いた――。(後編/全2回)

※本稿は、鳥集徹『コロナ自粛の大罪』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。

COVID患者への酸素供給を調整する医療従事者。
写真=iStock.com/Tempura
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病床数世界一の日本で医療崩壊が起きる理由

(前編から続く)

【鳥集】ところで、森田先生は第三波が襲い、医療崩壊が騒がれる前から、日本の医療が抱える問題をいち早く指摘されてきました。日本は人口当たりで世界一の病床数です。また、コロナの陽性者数も、欧米各国に比べると数十分の一にすぎません。それなのになぜ、全国の重症者が1000人を超えたくらいで医療が逼迫してしまうのか。

【森田】それは日本の医療が機動性に欠けるからです。一般病床を感染の増減に応じて、柔軟にICU(集中治療室)やHCU(高度治療室)に転換するのが「縦の機動性」。そして、他科や他施設の医師・看護師をコロナ病棟に派遣したり、医療がまだ余裕のある他地域に患者を移送したりするのが「横の機動性」。

欧米の国々では、こうしたことを柔軟にやっているのです。にもかかわらず、なぜ日本ではできないのか。その大きな要因の一つとして、日本の医療機関は民間が8割で、公的医療機関が2割しかないために、政府・厚労省の指揮命令系統が及びにくいことが挙げられます。

また、医療を競争原理に任せて運営してきたために、医療機関同士がライバルになってしまっている。平時では、それが医療の質やサービス向上につながるけれど、有事になると上手に連携がとれない。そうしたことを放置してきたツケが、コロナ禍になって回ってきたのだと思うのです。