この冬、インフルエンザの患者数が激減した。消毒やマスクといった感染予防を徹底すれば、コロナ以外の感染症も防げるかもしれない。ただ、そうした「新しい生活様式」をずっと続けることは本当に望ましいのだろうか。ジャーナリストの鳥集徹さんが医師の森田洋之さんに聞いた――。(前編/全2回)

※本稿は、鳥集徹『コロナ自粛の大罪』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。

若い女性の肖像
写真=iStock.com/monzenmachi
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なぜ日本では欧米より死亡率が低いのか

【鳥集】なぜ日本を含むアジア・オセアニア地域ではコロナ感染者が少ないのか。その解明できていない要素のことを、ノーベル賞を受賞した京都大学の山中伸弥教授は「ファクターX」と名づけました。

このファクターXについては免疫的な要素の他に、「欧米人にはネアンデルタール人から継承された遺伝子があるから」とか「日本人は欧米人に比べ清潔好きな国民性だから」など、いろいろ言われてきましたが、どうなんでしょうか。

【森田】遺伝的要因はたぶん違うと思います。

【鳥集】確かに、欧米に住んでいるアジア系の人たちの死亡率は、欧米系の人たちと変わらないそうですね。

【森田】そうです。アメリカなんかでもアジア系の人のほうが若干死亡率は低いんですが、何十倍も死亡率に差がついているわけではありません。一方、オーストラリアとかニュージーランドなどは欧米系の人が多いですが、死亡率が非常に低い。

それに、日本人が清潔好きだからとか、家に入るのに靴を脱ぐからとか言う人もいますが、それが東アジアとかオセアニア全域に共通しているのかというと、全然そうでもないですよね。

【鳥集】他にも、ヨーロッパと東アジアではウイルスの型が違うとか。

【森田】型はすべて共通です。日本でも欧米型の株は、すべて確認されています。

ファクターXは、BCGか交差免疫か……

【鳥集】日本のように結核予防の目的で行われるBCGの接種(*1)を継続している国で死亡率が低いという指摘もあります。

(*1)BCG接種……結核予防として行われるBCG接種を継続している国は、中止した国と比べて新型コロナの感染率・死亡率が低いという指摘が相次ぎ、医学研究や臨床試験が行われた。否定的な結果も多いが、BCGが自然免疫を高めているのではないかとみる研究者も多い。

【森田】そうですね。BCGはあるかもしれません。また、アジアやオセアニアでは新型コロナが流行る前に、似たタイプのコロナウイルスが流行っていて、その免疫が新型コロナにも効いているという「交差免疫説(*2)」があります。ファクターXとしては、その2つぐらいしか残らないのではないかと思います。

(*2)交差免疫説……ある細菌やウイルスなどに免疫があると、それと似た構造の細菌やウイルスにも免疫が働くという仮説。新型コロナの陽性者、死亡者が少ないアジア・オセアニアでは、この交差免疫が働いていると考える識者が多い。