大都市生活者をバイ菌扱いした地方人

このころはまだ東京と周辺の3県(神奈川・埼玉・千葉)、大阪・京都、札幌、名古屋、福岡といった大都市の陽性者が多かっただけで、地方では感染爆発という状況にはなっていなかった。そのため、これら大都市の人々が日本各地で過剰なまでに警戒されていた。

たとえば静岡県御殿場市では、「一見さんお断り」の表示を市が用意するほどだった。また、岡山県や長野県は他県から入って来ないよう強く呼びかけていた。とくに岡山県の伊原木隆太知事は「県境を越えて移動してきた人が、検温で後悔していただくことになれば」と発言し、「じゃあもう岡山なんて行かねーわ!」などとネットで強い反発を受けた。一方で、徳島県の飯泉嘉門知事は「他県ナンバー狩り」をしないよう警鐘を鳴らした。なお同県の企画会社が、他県ナンバーのクルマに乗る県内在住者が自衛できるように「徳島県内在住者です」のステッカーを作成したことも話題になった。

当時、「5ちゃんねる」といったネットの掲示板などでは、東京都民のことを「トンキン土人」などと蔑視し、東京で感染者が増加したり、都民が他県に移動したことがわかったりすると「いい加減にせぇ、トンキン!」と口汚く罵るのが定番となっていた。悪者になったということでは、「東京在住者」や「都会人」も同様だったのである。

2020年5月1日、谷中銀座に掲げられた注意書き
写真=iStock.com/Fiers
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名指しでやり玉に挙げられた「夜の街」界隈

そんななか、政治家で最大の悪者とされたのが「安倍晋三・前首相」である。俳優・ミュージシャンの星野源がインスタグラムに『うちで踊ろう』という楽曲の弾き語り動画を投稿。それを受けて、タレントやミュージシャンから一般人まで、多くの人がコラボ動画を作成して話題を呼んだ。その流れにのって、安倍氏もステイホームでくつろぐ自身の姿をくだんの動画に組み合わせたコラボ(というか、勝手に使っただけの)動画を公開したところ、優雅にコーヒーを飲んだり犬を抱いたりする様が「貴族か!」と批判された。合わせて「アベノマスク」も政府の無策の象徴として悪者扱いされた。

そして夏が近づいてくると、「接待を伴う飲食」「ホスト」「夜の街」が悪者にされた。小池都知事が再三これらの言葉を会見で使用し、実際に東京都の職員が新宿・歌舞伎町に出向いて指導する光景もしきりに報じられた。

前出の「ライブハウス」と同じように、こうした類いの店はパリピ的でアングラなイメージがあるから、叩きやすいのだ。この時期、コロナをめぐって「誰かを悪者にする」流れはすっかり定着したといえよう。