東京オリンピック・パラリンピックの開催をめぐって世論が割れている。ライター・編集者の中川淳一郎さんは「いまは東京五輪の中止を求める声が大きいが、五輪が実施されれば、日本は多数のメダルを獲得するだろう。そうなれば空気は変わる。メディアは手のひら返しで、祝勝ムードを盛り上げることだろう」という──。
新国立競技場
写真=iStock.com/Ryosei Watanabe
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「五輪反対」を叫ぶと称賛される開催国・日本

いま、世間から「常識人」「人道派」「人権派」「人格者」と思ってもらえる、簡単な方法がある。それは、東京五輪の開催に反対することだ。

たとえば『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日系)に登場するコメンテーターで、テレ朝社員でもある玉川徹氏が番組内で口にした「五輪開催強行はギャンブル。賭け金は日本人の命と健康」などは、まさに典型的な言葉であろう。その他、具体的な氏名は挙げないが、多くの著名人、そして野党議員が五輪中止を強く訴え、拍手喝采を浴びている。

また、ネットメディアも「五輪反対!」の側に回れば多数のアクセスを稼ぐことができ、読者から称賛されることに気づいたらしく、下に列記したような批判的記事を頻出させている。なかには「海外メディア様も怒っている!」という必殺技を繰り出し、“日本国内だけでなく世界中で懐疑的に見られている東京五輪”というムードの醸成に余念がない媒体もある。とりわけ東スポWebはアンチ五輪特需に振り切った印象で、徹底的に五輪反対の論調で進んでいる。いい金脈を得たと判断したのだろう。

・【東京五輪】印メディア IOCコーツ副会長を痛烈批判「争いを巻き起こすことに成功した」(東スポWeb 5月23日)
・日本の医師による「東京五輪株」危惧発言が海外で大波紋(東スポWeb 5月28日)
・枝野氏、五輪「命を犠牲にしてまで」バッハ会長発言で(朝日新聞デジタル 5月23日)
・IOCバッハ会長、五輪のために「犠牲を」反発必至(毎日新聞電子版 5月24日)
・松本人志、IOCコーツ氏「緊急事態宣言下でも東京五輪開催」発言を批判(マイナビニュース 5月23日)

開催賛成派は「人命を軽視する非道な連中」なのか

さらに、5月26日の朝日新聞社説「夏の東京五輪 中止の決断を首相に求める」も典型的だった。一部引用する。

〈何より大切なのは、市民の生命であり、日々のくらしを支え、成り立たせる基盤を維持することだ。五輪によってそれが脅かされるような事態を招いてはならない〉
〈誰もが安全・安心を確信できる状況にはほど遠い。残念ながらそれが現実ではないか〉
〈十全ではないとわかっているのに踏み切って問題が起きたら、だれが責任をとるのか、とれるのか。「賭け」は許されないと知るべきだ〉

これはもう、五輪反対派、そして「コロナウイルス、ヤバ過ぎ」派、「日本アホ過ぎ」派の言いたいことがすべて網羅された、見事な社説である。

こうした反対派の語る論は「現在の日本のような感染爆発国に外国の人々を招いて、国際社会に迷惑をかけてはいけない」「海外から変異株がやってきて、日本の状況がさらに悪化したらどうする」「子どもたちの運動会は容赦なく中止するのに、なぜ五輪は開催できると思うのか」「錦織圭選手のような有力選手も反対している」「日本のようなワクチン後進国で五輪などできるわけがない」といった考え方に基づいている。

いずれにしても「五輪を開催すると生命に危険がある」という前提に立ち、「スポーツ大会よりも命のほうが大事に決まっている」「よって、開催賛成派は人命を軽視する、非道でゲスな連中」というロジックを構築する。