失業した人が集まる場所
希望退職募集に応募すると、通常の規定退職金にプラスして割増退職金と、オプションで再就職支援会社を通じた就職支援サービスが付く。割増退職金を月給の12~24カ月分、多いところでは36カ月支給する企業もある。再就職支援サービスは企業と契約したアウトプレースメント会社が行うが、就職の斡旋ではなく、職務経歴書の書き方や新しい仕事の探し方など、あくまで就職するまでサポートするのがメインの役割だ。
リーマンショック後に大量リストラが実施された時期に都内のアウトプレースメント会社を取材したことがある。オフィスに入ると、広いフロアにブースで仕切られたたくさんの机が並び、大勢の人たちが電話をかけたり、目の前のパソコンに向かっていた。同社の幹部に「この人たちはお宅の社員ですか?」と尋ねると、「いや、皆さん再就職支援サービスを受けている人たちです」と言った。
中二階から眺めると、確かに40代以降の年輩の人たちが多い。その中にヒールを履いたスーツ姿の女性も混じっていたのが印象的だった。彼・彼女らは自宅から毎日このオフィスに通い、コンサルタントから職務経歴書の書き方や面接の指導を受けたり、企業面接のアポを取るなど、ここを拠点に活動していた。全員が退職し、職探しをしている人とはいえ、一見、普通のビジネスパーソンと変わらない。自宅から毎日電車に乗って通っていると、近所の人は誰も「失業している人」とは思わないだろう。
希望退職は退職したい人が手を挙げるのではない
ただし、彼・彼女らの心中は複雑だ。同社の幹部は「会社に辞めさせられたというショックから立ち直れない人も少なくない。最初のコンサルティングは、そうした気持ちを切り替え、再就職に前向きになるようにすることから始まる」と言っていた。
ところで「希望退職者募集」は「希望」だから退職したい人が手を挙げるので一方的なリストラ(クビ切り)でないと思う人もいるかもしれない。
しかし実際はそうではない。以前、希望退職募集を実施した機械メーカーの人事部長は「会社は各部門の削減人数を確定し、希望退職募集の公表後に部門長による全員の面談を設定する。その中で応募しないで残ってほしい社員の慰留と、退職してほしい社員の退職勧奨も行われる」と言っている。つまり、希望退職では、会社としては残ってほしい優秀な社員と辞めてほしい社員を選別し、部門長に面談を通じて削減人数の達成を厳命することが同時に行われることが多い。