「総合的、俯瞰的に判断しました」と繰り返せばよかった
【佐藤】でも、私がもし総理の側近にいたら、後付けの物語をいくつでも作れると思います。例えば、ジョージ・オーウェルの『アニマル・ファーム』の世界ですね。農園を支配していた豚が、動物たちで定めた規則に反してベッドで寝ていた。他の動物たちが抗議すると、規則に「ウィズ・シーツ」という言葉が付け加えられていた。つまり、シーツを掛けたベッドに寝てはいけません、掛けてないのだからOKなのです、と。
【池上】ここで「動物農場」にたとえますか。(笑)
【佐藤】もし私が官邸にいたら、菅首相には、「総合的、俯瞰的に判断しました」と30回繰り返してください、とアドバイスしたことでしょう。そこまでやれば、野党に攻め手はなくなったはずです。
【池上】この日本学術会議の件に限らず、どうも菅総理はあやふやな国会答弁が多いですね。政権の側がそれでいいだろうと思っていて、実際にその手法が罷り通ってしまう。
【佐藤】メディアも国民も、そういう対応が続くと慣れてしまう。少々の発言では驚かなくなってしまうわけです。
【池上】まさに民主主義の形骸化です。本来、絶対に許してはいけないこと、慣れてはいけないことなのだけれど。
【佐藤】私は、ケースによっては、木で鼻を括ったような答弁でやり過ごすことが必要なこともあると思うのです。しかし、国会で説明すべきことをせず、いたずらに行政権が拡大していくというのが好ましいことでないのは、明らかでしょう。あえて付け加えておくと、行政権は肥大化すると同時に、戦前の陸軍の統制派と皇道派のごとく、内部対立が先鋭化する危険が高い。
【池上】勢力が拡大すると、えてしてそういうことが起こります。
【佐藤】対立が政権運営に影響を与える局面も増えるでしょう。その結果、学術会議のような「事件」が、頻繁に発生するようになるかもしれません。