ポピュリズムと民主主義の違いは何か。作家の佐藤優氏は「ポピュリズムという言葉は多用される割にうまい定義がされていない」と指摘する。池上彰氏との対談をお届けしよう――。

※本稿は、池上彰・佐藤優『ニッポン未完の民主主義』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

首相記者会見/会見する安倍首相
写真=時事通信フォト
会見する安倍晋三前首相=2020年6月18日、首相官邸[代表撮影]

拍手喝采で迎えられた小泉元首相

【佐藤】議院内閣制を採る「日本型民主主義」においては、国民に最も支持される政治家がトップに就くとは限りません。第二期で長期政権を築いた安倍さんも、多くの人に請われて総理大臣に返り咲いたという感じでは、必ずしもなかった。

【池上】まず、民主党の「敵失」がありました。2012年に出馬表明した自民党総裁選でも、地方票で石破さんの後塵こうじんを拝した末の逆転でしたから。

【佐藤】国民から拍手喝采で迎えられた、という点で特筆されるのは、2001年から5年半にわたって首相を務めた小泉純一郎さんです。小泉さんは、「自民党をぶっ壊す」「私の政策を批判する者はすべて抵抗勢力」という斬新なスローガンを掲げて「小泉旋風」をまき起こし、橋本龍太郎さん有利の下馬評を覆して、総裁選挙に圧勝しました。当時人気の高かった田中真紀子さんと組んだのも大きかった。

【池上】一般党員などを対象にした総裁選挙予備選の街頭演説には、数万人の聴衆が集まることもありました。「先代」の森喜朗内閣への不満や、閉塞した時代背景などもあったわけですが、ともあれ国民を大いに引きつけた。それを見て、「壊す」と名指しされた自民党も、ブームにあやかろうということになったのです。

健全な民主主義とポピュリズムは違う

【佐藤】そんな小泉さんが、最高権力者になってから推し進めたのが、「ポピュリズムの政治」でした。国民の絶大な支持を背景に、「骨太の」政策を断行する。それは、表向きには民主主義を貫徹しているように見えて、実はそうとは言えなかったのではないか、というのが私の小泉政権に対する評価なのです。

では、健全な民主主義とポピュリズムは、どこが違うのか? ポピュリズムという言葉が多用される割に、なかなかうまい定義がされていないように思うのですが、私は次のように切り分けています。

すなわち、ポピュリズムは、基本的には、多数決原理で50%プラス1票を取ったら、その人は「総取り」して問題ない、という発想です。とにかく「数は正義」なのだ、と。それに対して、「本当の民主主義」には、多数派がいたずらに数で押し切ることをせず、少数派の意見を最後まで尊重して議論を尽くす姿勢が貫かれている。そういう違いがあると考えるのです。

【池上】小泉政治は、まさに「数は正義」でしたね。少数派は最初から「抵抗勢力」で、議論の余地なし、とされましたから。

【佐藤】そして、そのやり方を多数の国民が一生懸命、後押ししていたわけです。