日本で最も救急搬送患者を受け入れている湘南鎌倉総合病院(神奈川県鎌倉市)の救命救急センター(ER)。私はこの年末年始、「絶対に救急患者を断らない」という同院に密着取材した。新型コロナの感染拡大は医療現場に大きな負担をかけているが、同院ERへの年末年始の救急患者は前年より減少している。救急医療の最前線をリポートする――。(第3回/全3回)(取材・文=ジャーナリスト・笹井恵里子)
救急救命士はコロナ疑いの患者に接する際に防護服を身につける
筆者撮影
救急救命士はコロナ疑いの患者に接する際に防護服を身につける

「コロナ治癒後の骨折」さえも、敬遠されてしまう

(※第2回から続く)

今、医療の現場では「コロナが治った人」が敬遠されている。新型コロナの陽性患者となり、入院して治療して“治った”と判断された患者が、新たな病気にかかった時の受診が難航しているのだ。湘南鎌倉総合病院ERでは、コロナが治って新たな病を発症した患者を受け入れてくれるよう他の病院にお願いしたものの、9件連続で断られたのだった。

そして10件め。

「本当ですか? 受け入れてくださるんですか?」

湘南鎌倉総合病院救急救命士の永澤由紀子さんが驚きの声で問い返しているのを聞き、よほど「受け入れが難しい」と感じていたのだと思った。その隣で、同院救命救急センター長の山上浩医師も「涙が出るほどうれしい」と喜ぶ。

患者を適切な病院に転院搬送させたいと交渉をはじめてから、およそ2時間が経過していた。それほどに今、一度でもコロナに感染した患者の「治癒後の別の病」を診ようと手をあげてくれる医療機関が少ない。内科的疾患だけでなく、「コロナ治癒後の骨折」さえも、敬遠されてしまうのだ。

「救急調整室での電話時間が圧倒的に長くなった」

2020年は「病院への交渉時間に多くの時間をとられた」と、救急救命士の渡部圭介さんも言う。

コロナ前に比べて救急調整室での電話時間が圧倒的に長くなった
コロナ前に比べて救急調整室での電話時間が圧倒的に長くなった(筆者撮影)

「コロナ疑いとか、コロナ陽性患者でしたらここで診られます。でも、当院で検査の結果、コロナでない発熱だった、骨折とともに発熱があるなどのケースでは、他の病院に転院搬送したくてもできない状態が続いています。“発熱”がキーワードで、それがあると受け入れを悩む病院が増え、われわれがいる救急調整室での電話時間が圧倒的に長くなりました。ただ試行錯誤していく中で、絆が深まった病院もあります。そういうところと、コロナ後も共にがんばっていきたい」

新型コロナの感染拡大によってベッド満床の危機、そして医療崩壊と報道されている。しかし、連載の第1回から記しているように、大切なのは「病院間の連携」だ。

各地に少なくとも一つ以上、急性期、つまり「初療」を請け負える大病院を行政が決める。そこに、患者と、医師や看護師などの医療従事者を集める。診断が下された後、緊急性や重症度が低い場合は連携する病院が行う、手に負えない疾患は適切な医療機関に紹介する。

これは医療機関が充実している都心部では、行政がリーダーシップを発揮すれば“今すぐに”実行可能なことである。運用上のほころびはあるものの、新型コロナを契機に、神奈川県では各医療機関の役割分担の枠組みがつくられた。