※本稿は、トミヤマユキコ『少女マンガのブサイク女子考』(左右社)の巻末特別対談「少女マンガはなぜブサイク女子を描き、わたしたちはなぜそれを読むのか?」を再編集したものです。
「ブサイクヒロイン」のよさとは
【トミヤマ】能町さんご自身もマンガの描き手として、キャラクターに情がうつるようなことはありますか?
【能町】私は最初からそうでありたいと思っています。というか、私はモブキャラというものを作りたくないんですよ。たまたま出てきた通行人ですら本当は設定を決めたいくらい。だって、現実世界にはモブキャラはいないわけじゃないですか。
【トミヤマ】その通りですね。言われてみれば、能町さんの作品は確かにモブがいないですね。逆にいえば、モブとして扱われがちなひとを主役にしたらどうなるか、という実験がされている気もします。
私は『ときめかない日記』と、その前に書かれた『縁遠さん』がすごく好きなんですよ。そこらへんにいそうなアラサーOLたちの話ですが、トレンディドラマ的な世界ではモブとされるようなひとたちを、メインに据えて描いている。それはある意味、ブサイク女子マンガとつながっているところがありますね。
「ブサイクヒロイン」ってヒロインであることの理由を常に求められているようなところがあって、キャラ設定が細かいことが多いんですよ。「明るく元気!」みたいな一本調子のキャラではどうにもならなくて、もう少し重層的というか、解像度を上げたキャラが形作られている。ストーリー自体はけっこうベタでも、性格とか感情は細かく描かれていることが多い。
「なぜこの人を好きになったの?」など問いが多い
【能町】確かに、一般的な美人のヒロインよりディテールが細かいですよね。
【トミヤマ】「ブサイク女子」のマンガって、問いが多いんですよ。恋愛するにしても、なんとなく好きになることはなくて、「なぜこのひとを好きになったの?」とか「好きになったらどうしたいの?」とか、常に問いを突きつけられる感じがある。「なんだかわからないけど好き!」みたいな理由が許されないんですよ(笑)。頭を使って考えることや、理性的であることを要請されるというのは、大きな特徴だと思います。
【能町】2007年に刊行した『くすぶれ!モテない系』というイラストエッセイで、「モテない系」とされる女の子を描いたことがあります。男の子にモテるためにいろんなことをする「モテ子」に対し、本来だったら「文化系女子」や「サブカル女子」的に言われていたひとをあえて蔑んで「モテない系」と名付けた。なぜそれを描いたかというと、その頃はあんまりそういう「非モテ」なひとたちがフィーチャーされていなかったんです。まだ赤文字雑誌も売れている時代でしたし、女の子といえば「モテ」に向かうもの、という感じだった。