近年の研究でわかってきた「脳腸相関」

食事には人を元気にさせる力がありますが、それは「脳腸相関」という、「腸の健康状態が脳のパフォーマンスに大きく影響してくる」という研究からも説明がつきます。近年、ストレスがきっかけとなって引き起こされる心と身体の病気に関して、脳と腸の関係が注目されるようになってきました。

過敏性腸症候群は、腸自体に炎症があるなど明らかな病状がないにもかかわらず、便秘や下痢などの症状が数カ月以上続く消化器官の機能障害のことです。電車通勤の途中に急にお腹が痛くなって、駅のトイレに駆け込むことや、会議や試験がある日に激しい腹痛で通勤、通学ができないという苦しみを抱えている人もいます。

昔から、ストレスが原因の病気は、脳内の神経伝達物質であるセロトニンが足りないなど、脳の状態が腸に影響を及ぼしていることは知られていました。しかし最近の研究で、脳から腸への影響だけでなく、腸の健康状態が脳に伝わり、気分や感情に影響を及ぼすことがわかってきたのです。

腸は「第二の脳」である

腸は食べ物を消化して、栄養素を吸収する消化器官です。ところが、腸にはそのような消化器官としての役割に加えて、ある意味脳と同じように思考をつかさどり、情報の処理・伝達を担う神経細胞が存在していることがわかってきました。

この神経細胞は、腸管神経系と呼ばれる独自の神経ネットワークを形成しており、脳からの指令がなくても、腸があたかも自発的に考えて活動するかのような働きをしているといわれています。いわゆる、腸が「第二の脳」といわれる所以ゆえんです。

脳と腸はお互いに情報を交換し合い、影響を及ぼし合っています。たとえばストレスを感じるとお腹が痛くなり、便意をもよおします。これは、脳が自律神経を介して腸にストレスの刺激を伝えるからです。逆に、腸に病原菌が感染すると、腸管神経系を介して脳に伝わり、脳内で不安感を感知します。

脳と腸の情報交換は、免疫系(腸には全身の半数以上の免疫細胞が存在)、内分泌系(ホルモンを分泌する細胞が存在)、神経系(腸管神経系が存在)という、腸に備わった三つの機能を介して行われます。

その中でも特に、腸から脳への情報伝達ルートとして重要なのが、「迷走神経」と呼ばれる神経です。腸から脳へ伝達される情報量は、脳から腸へ送られる情報量より多いといわれています。つまり脳は腸から送られてくる情報に大きな影響を受けている、といえるわけです。