「若手にしがみついているだけというのは嫌です」
こう語る彼にはいま、一つの目標がある。それは定年の65歳まで舞台に立ち、「プレイヤー」であり続けることだ。
「コロナで公演ができなかったとき、その状況に立ち向かう社長(木下唯志さん)の姿を見て、このサーカスを信じようと強く思いました。『社長についていけば大丈夫』という信頼関係があるので、将来に対する不安は全くありません。
あとは自分の演技に対するモチベーションを高く保ち続けることですね。上達していく若手に、しがみついているだけというのは嫌です。やるからには、彼らがうまくなるのと同じように、自分がうまくなりたい。体力が衰えていく以上に自分の財産である経験をひき出していけば、必ず定年までできるはずだと信じています」
そして、いつか舞台を離れる日が来たとき――と夢見るように彼は言うのである。
「僕はサーカス団の一員として、日本各地を巡ってきました。そのなかで、広島で家族を守ってくれている妻に、見せてあげたい風景がたくさんあるんです。その一つひとつの場所をのんびりと巡るような旅を、いつか一緒にしたい。これまで一緒にいられなかった時間を、そうやって取り戻したいと思っているんです」