失敗しかけた状況をどうカバーするかが腕の見せ所

彼がキャッチャー冥利に尽きるといつも感じるのは、そうした時期を一つひとつ乗り越えながら、観客の前で演技をする若手たちの成長を間近で見られることだ。今では空中ブランコ・チームの全員が教え子で、癖や性格を把握した上で演技をしている。

「フライヤーが少しミスをして『ヤバイ!』と思ったとき、軌道修正をしてあげるのもキャッチャーの役割。失敗しかけた状況をカバーして、成功に導くのが腕なんです。キャッチャーを信頼して安心して飛ぶことができれば、フライヤーはより輝くことができる。だから、『あのとき助けられました』と、後で彼らに言われると本当にうれしいですね」

彼がデビューした頃と比べると、演技の難易度もかなり上がっているという。この四半世紀でフライヤーとキャッチャーの間の距離は50センチほど広くなり、その分だけ滞空時間が長くなった。滞空時間が長くなれば、回転や捻りの数も増えて技が進歩していく。

チームの最年長であるだけに、体力面では若手にかなわない面もある。だが、中園さんにはそれを経験によってカバーすることで、そうした新たな技にも対応してきたという自負がある。演技のレベルの変化に付いていける限り、「自分には現役を続けていく力がある」と彼は胸を張るのだった。

今年8月から東京都立川市での公演を再開

2020年5月、新型コロナウイルスの流行による非常事態宣言が出され、木下サーカスは翌月からの予定だった新潟公演を中止。約4か月間にわたる休演を余儀なくされた。

海外ではシルク・ドゥ・ソレイユの経営破綻が報じられ、エンターテインメントをめぐる環境は日に日に厳しさを増している。そんななか、彼らは8月に東京都立川市での公演を再開したが、2000人収容の客席の座席数を900まで減らすなどの感染対策が続いている。

撮影=門間新弥
決死の空中大車輪「ホイール・オブ・デス”(Wheel of Death)」。高速で回転する巨大ホイールの内外でパフォーマーが飛び回る。

休園期間中、団員たちは設備のメンテナンスをしたり、総出でペンキを塗り替えたりといった作業をしながら、週に一度は本番と同じリハーサルをしてきた。

「テントを降ろすという大変な作業も、台風であれば過ぎ去るのを待てばいい。コロナは先が見えないだけあって、みんなの不安も大きいものがあります」と中園さんは話す。

「でも、だからこそ心が折れたら終わりだ、と思って練習をしてきました。リハーサルをしていると、口には出さないけれど気持ちは一緒、ここは大きな家族なんだと感じます。みんなで同じ方を向いて乗り切っていきたいです」