「自分の体に染みついている動きをぜんぶ捨てないといけない」

さて、そうした日々の中で、中園さんは空中ブランコの経験を積んできた。「頭が真っ白になった」という前述の舞台デビューから3年目に「キャッチャー」へ転向し、近年は若手の育成も担当するようになった。

いま、彼が若手の育成に当たって繰り返し伝えているのが、約25年にわたる経験から得た感覚だ。

「空中ブランコにとって最も基本となるのは、やはり空中での『揺れ』を体で覚えることです」

撮影=門間新弥
空中ブランコは「フライヤー」を「キャッチャー」が受け止める芸だ。中園さんは教え子の癖にあわせて手を差し伸べる。

例えば、彼自身、最初は体操競技で培った「鉄棒」の感覚でバーから飛んだが、すぐに必要とする動きが全く異なることに気づいたという。

「自分の体に染みついている動きをぜんぶ捨てないといけないんだ、と思いましたね。いくつかの支点を最大限に利用してブランコに『揺り』を付ける感覚を、半年くらいかけて徹底的に覚えていったものです」

新人が初舞台に立つまでには平均2年弱かかる

ブランコをしっかりと揺らす技術を覚えたら、次はキャッチャーに向かってバーを離す感覚を身に付ける。たとえ体操経験者であっても、空中において徐々に近づいてくる相手に向かって、最初から上手に飛び込める者はいない。

また、彼がこだわっているのが姿勢の「美しさ」だ。

「練習の最初の段階から、失敗してもきれいに演技をするよう指導しています。練習を重ねて技ができるようになったとき、それがすでに完成されている状態を目指しているからです」

そのようにブランコでの動きや技を練習し、ようやく新人が初舞台に立てるまでには平均2年弱の時間がかかるそうだ。

「ただ、僕らの言葉で『中落ち』というのですが、デビューして少し経つと、できていたことができなくなる時期がやってくるんです。いわゆるイップスですね。僕もずいぶんと悩んで、『なぜだろう』と悶々と考えて夜も眠れなくなった経験があります。

そうやって目の前のことに必死になっているうちは、まだ一人前とは言えません。余裕が出てきて、『これならもう一度捻りを入れられるな』とイメージしたり、新しい技を試したいとワクワクし始めたりしたときが、一人前の入口だといえるでしょう」