人気を集める「バーチャルツアー」
旅行会社も「Go Toトラベル」事業の恩恵を大いに受けている。ある旅行会社では、「10月に入ってから、前年比で3倍近くの数字になっている」や「予約数が前年比超えしているだけでなく単価も高い」といった声があがっている。
そうした旅行会社の声を拾っていくと、ある1つの共通点が見えてくる。それは、「オンラインへの移行」である。したがって、私はアフターGo Toを見据えると、オンライン化への対応が成否をわけるとみている。
旅行会社においては、大手ほど恩恵を受けているという声が根強い。的を射た意見であるが、一方で地方の中小の事業者でもうまく波に乗れているところもある。オンラインを強みに変えている事業者だ。
たとえば、京都のミニツアーを提供する「まいまい京都」。同サイトは4月、5月には存続の危機に陥ったが、その後、クラウドファンディングも活用しながら、オンライン化の流れに合わせて、魅力あるコンテンツを揃えたことで、見事な復活を果たしている。
具体的には、リアルでは不可能な付加価値をつけた企画が人気を呼んでいる。たとえばリアルのツアーで回れる場所は、2時間でせいぜい数カ所だが、バーチャルなら10カ所以上回ることも不可能ではないし、通常は保存を目的として立ち入りが禁じられているところでも、バーチャルであれば大人数で入ることが可能だ。
同サイトのツアーでは、普段は非公開となっている二条城の東大手門の内部に入れる企画があるが、初回は500名定員で完売、第2回はテレビでもおなじみの歴史学者磯田道史氏が案内役を務め、900を販売した。今後、このようなオンラインならではの付加価値がポイントになってくる。
“ブーム”で終わらせないためには
ただ、「Go Toトラベル」事業は良くも悪くも、カンフル剤であると私は考えている。すなわち一時的な特需であるということだ。
Go To依存から脱却するためには、「Go To」という接点でつながった顧客と1回の関係性で終わりにさせるのではなく、深い関係構築を目指していく必要がある。
値段(安さやお買い得感)ばかりを重視する客かどうかを見極めたうえで、サービスやコンテンツといったお金以外の部分で自分たちを選んでくれる顧客としっかりつながり、ロイヤルカスタマーを育成していくのだ。
具体的には、旅行会社やOTA(オンライントラベルエージェント)に頼り切るのではなく、自社で顧客管理の仕組みを構築し、顧客と直接的につながっていくこと。
そのひとつの方法が、拙著『観光再生~サステナブルな地域をつくる28のキーワード』でも詳述した「観光CRM」である。CRM(Customer Relationship Management=顧客関係管理)は顧客属性や接触・購買履歴といったデータを蓄積・管理し、それぞれの顧客に応じたきめ細かい対応を行うことで長期的な関係性を築き、顧客満足度の向上や取引関係の継続につなげる取り組みである。
顧客満足度と顧客ロイヤルティの向上に資するといわれるこのCRMは、顧客を主役にしたマーケティングの1つとして広く一般に知られているが、良くも悪くも観光業においてはその対応が遅れていた面があった。日本の観光産業は、マスツーリズムや発地(送客)型観光が主役だったからだ。
しかし、昨今、着地型観光の重要性が謳われ、また、CRMを効率的に行うためのツールが各所で開発されてきたこともあり、観光に関係する地域の観光団体や事業者でも活用する観光CRMに取り組む例が出てきている。