地域社会を支える「分散型ホテル」

インバウンド市場の成長に伴い、全国各地に増えてきたのが、宿泊に特化したゲストハウスや分散型ホテルである。もちろんすべてがあてはまるわけではないが、その多くが地域コミュニティとの横のつながりを重視し、いかに地域全体でゲストを迎え入れるかに注力してきた存在である。

日本の伝統的旅館に到着する若い旅行者のグループ
写真=iStock.com/JohnnyGreig
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客室はリノベーションした地域の空き家(ビル)や古民家を活用し、入浴は地域の銭湯を推薦し、ディナーは地域のローカルな居酒屋へ連れて行き、朝食は地域の小さなお店が作ったものを提供する、地域住民とゲストが行き交う場やきっかけをつくって交流を促すといったことなどがその特徴だ。

代表例をあげると、インバウンドの先駆者ともいわれている東京・谷中にある「澤の屋旅館」を筆頭に、古き良き商店街の空き店舗を利活用した名古屋・円頓寺にある「なごのや」、2018年から星野リゾートが始めている都市観光ブランド「OMO」、兵庫・丹波篠山発祥で全国に広がりつつある空き家(古民家)を活用した「NIPPONIA HOTEL」。

この7月に岐阜・飛騨古川エリアでオープンしたローカルさにこだわり抜いた「SATOYAMA STAY」、あるいは先にも挙げたドミトリーを活用した幾多の地域に根ざしたゲストハウス(簡易宿所)である。

観光客と地域の結びつきが新たな価値を生み出す

コロナ禍において大きなダメージを受けているこうした事業者を支えることは、地域社会を支えることと同義であるゆえ、恩恵が行き渡るようにしなくてはならない(もちろん高級旅館やリゾートホテル、さらにはラグジュアリーホテルなども、日本の観光にはなくてはならない存在であることは追記しておく)。

なぜなら、こうした分散型ホテルには「地域への経済的な波及効果が大きい」ことに加えて、「観光客と地域の結びつきによって、新たな価値の創造につながる」からだ。地元の人だけでは気づけない地域ならではの魅力が発見されたり、外部の人間と地域住民とのコラボレーションによって(観光分野だけに限らない)新たなコンテンツやサービスが生まれるといったことが期待される。

結果的に、それは近い将来に再開する国際観光において、世界の観光客が日本を訪れる大きな動機になっていくということだ。