ホテルの一室で食べるカップラーメンの美味さ

そしてこの「目黒のさんま」。

殿様の無知を笑うというのが従来の見方ではありますが、はたしてそうなのでしょうか?

当時の目黒は山奥ですから、さんまは獲れたてではなく塩漬けされたかたちで運ばれてきたはずです。運ばれる日数がアミノ酸分解を促し件のさんまにはうま味成分がふんだんに出ていたのではないでしょうか。つまり目黒で獲れるはずのないさんまを「目黒に限る」といった殿様の世間知らずを嘲笑するのではなく、本当に美味いものに対する感度を実は殿様の舌が有していたのでは、とも思えてこないでしょうか?

実際、高級料理ばかり食べ続けているとホテルの一室で食べるカップラーメンが心底美味しかったりもしますし、私などは「メロンパンは安いほどおいしいのかも」とすら思ってもいます。

ベッドに寝そべって麺を食べるいたずらな女性
写真=iStock.com/JohanJK
※写真はイメージです

落語は「日本人の失敗予言書」である

立川談慶『落語はこころの処方箋』(NHK出版)
立川談慶『落語はこころの処方箋』(NHK出版)

ま、とにもかくにも。

こんな具合に、「目黒のさんま」は、昔から「人間って、強い奴には誰もが忖度してしまうものなんだよ」と謳い続けてきたのです。そんな見方をしてみると、「目黒のさんま」に限らず、落語は「日本人の失敗予言書」にすら思えてきます。

みなさん、落語を聞きましょう。

そして、『安政五年、江戸パンデミック。』ならびに『落語はこころの処方箋』、くれぐれもよろしくお願いします。

【関連記事】
「官僚になる前から官僚的」東大生が受け継ぐテスト対策の伝統
菅首相が学術会議人事で大ナタをふるった本当の理由
日本人を思考停止にする「同調圧力」が、落語という世界に誇る文化を生んだ
バカほど「それ、意味ありますか」と問う
橋下徹「これが学術会議『任命拒否』問題の本質だ」