しかし基地局などのインフラで圧倒的に劣る新規事業者が大手の牙城を崩すのは簡単ではない。楽天は基地局を前倒しで設置して21年夏までに人口カバー率96%を目指すそうだが、あくまで人口密集地をカバーするだけで、エリアのカバー率ではない。田舎ではほとんど通じないのだ。

エアライン市場とよく似ている

国内の携帯電話市場はエアライン市場とよく似ている。JALとANAの独占市場に、LCC(格安航空会社)がいくつも参入した。しかしネットワークやスタッフなどの固定費を切り詰めて効率重視の運営をしているLCCは使い勝手が悪いために需要が伸びず、経営難から多くが大手の傘下に吸収されてしまった。

携帯電話もエアライン同様ネットワークやインフラ構築が重要で、参入障壁は非常に高い。競争を導入すれば値段が下がるというのはネットワーク事業では幻想なのだ。

結局は値下げに踏み込むには行政が動くしかないのだが、これまでも総務省が規制を強化するたびに大手3社はあの手この手で収益構造をキープしてきた。今回もひたすら頭を垂れて、菅政権という嵐が過ぎ去るのを待つ構えだろう。

全国に102ある地方銀行についても、菅首相はかねてより「数が多すぎるのではないか」と再編の必要性に言及していた。しかし地銀の再編が必要になった理由は何か。安倍政権による異次元の金融緩和である。超低金利で利息がつかないから銀行の経営は苦しい。

菅首相の基本政策の1つ「活力ある地方を創る」ために、地銀はキープレーヤーになりうる。私は日本全国をバイクで回っているが、風光明媚で山海の食材は豊か、道路も整備された場所というのはそこかしこにある。しかし、残念なことに美味しいレストランや十分な宿泊施設がないことが多い。

フランスやイタリアはどんな町にも美味しいレストランと十分な宿泊施設があって魅力的な観光地になっているが、日本の地方にも世界から人を呼び込める素材がある。必要なのは素材を観光資源につくり変える構想力であり、プロデュース能力だ。ローカルの金融機関はそのポテンシャルを秘めている。地域密着で地元のセールスポイントや企業、人材をよく知っているし、当然、資金もある。顧客の帳簿を読み込んだり、ドブ板営業をするのは、もはや地銀の役割ではない。

それを再編・統合して、たとえば青森から福島まで一緒にして「東北ビッグバンク」などつくったら、いまのメガバンクと同じでプロデュース能力は発揮できず、ローカルの魅力が掘り起こせなくなってしまうだろう。