不妊治療の保険適用は少子化対策の一環だが、取り組むべき少子化対策が100あるとすれば優先順位は73番目くらいの話である。少子化対策で真っ先にやるべきは戸籍の撤廃。第2は婚外子でも日本人として認知するフランス型の社会制度の実現である。

合計特殊出生率(1人の女性が生涯に生む子どもの数の平均)を1.9~2.0程度まで回復させたフランスやスウェーデンは戸籍を廃止して、事実婚を認めた。婚外子への差別をなくし、子どもを産みやすい社会にした結果、生まれた子どもの半数以上は婚外子だ。

日本の婚外子の割合は約2%。男性の戸籍に入れるのが不都合であれば、多くの場合は堕胎するか、シングルマザーとして育てるかのほぼ2択になる。つまり戸籍が出生の大きな縛りになっていて、戸籍廃止は婚外子差別をなくす社会改革の第一歩なのだ。同時に出産に経済的なインセンティブを与えていく。手厚くきめ細やかな各種手当や所得補償、育児支援のほか、フランスでは子どもを産むほど税制が優遇されて、3人産めば所得税がマイナスになる。

最後のデジタル庁創設に関しては、「庁」と言っている時点で期待値ゼロである。世界中でデジタル化をうまくやった国・地域では、「省」の上に「スーパーデジタル省」的なセクションをつくって、あらゆる省庁に命令する権限を与えている。

組織のトップで辣腕を振るうのは台湾ならデジタル担当大臣のオードリー・タン(唐鳳)氏、インドで言えばIT大手インフォシス・テクノロジーの共同創業者で、インド身分証明庁長官として13億人が登録する国民識別番号制アドハーを推進したナンダン・ニレカニ氏といったデジタルネイティブである。担当大臣が「自民党きってのIT通」「IT人材と交友」レベルでは話にならない。

日本が抱える問題の本質は脱20世紀の失敗

菅政権の目玉政策をざっと眺めて感じるのは「小手先感」である。安倍前政権のようにできもしない大風呂敷を広げているわけではないが、「ちまい」政策ばかりで、全部足し合わせても日本の経済社会を前向きに変えるようなパワーを感じない。別の言い方をすれば、「改革」を旗印に掲げておきながら、新首相は日本の問題の本質がどこにあるのか、わかっていないのだ。

日本の最大の問題は、いまだに21世紀に脱皮できていないことである。20世紀後半の日本は教育によって均質で平均値の高い人材を輩出し、世界に冠たる工業化社会、世界第2位の経済大国を築き上げた。しかし21世紀に入ると教育がグローバルに普及して中国はもちろん、タイ、ベトナムのような新興国でも日本同様のものづくりができるようになった。しかも賃金は日本の約5分の1以下という世界だから、もはや単純なものづくりでは太刀打ちできない。