団塊世代も高齢化したってことでしょうか。疲れたお父さんは『大河の一滴』(98年)でほっとしたり、『生き方上手』(02年)で長生きの秘訣を学ぶ。『おひとりさまの老後』(07年)も完全に団塊世代がつくったベストセラー。脳を老化させない「脳トレ」本も戦後を牽引してきた高齢者ねらいでしょう。

脳トレ系のきわめつけは、『えんぴつで奥の細道』(06年)。松尾芭蕉の随筆が薄く印字され、それを上から鉛筆でなぞっていく。これは、ある意味スゴイ(笑)。なんでなぞらなくちゃいけないんですか字を。日本人はおもしろいよね。

団塊ジュニア以降の若い世代に見られる現象は、『ハリー・ポッター』と『蟹工船』(29年)やドストエフスキーを等価なものとして読んでいること。かつては読書の筋道が確かに存在していました。小学校で伝記ものを読んで、中学で『伊豆の踊子』(26年)や『野菊の墓』(1906年)あたりの日本古典を押さえ、高校生になったら海外文学を読む――。でも、今の若い世代は直感的におもしろいと思ったものを手に取る。権威はもう通用しないんですね。

ここまで時間の流れを横軸に考えてきましたが、縦軸で見ることもできます。ベストセラーにはいくつかのパターンがあって、みんなが忘れた頃に、昔売れたテーマが装いを新たに再登場してくることがよくあります。

(構成=小檜山想 撮影=若林憲司・市来朋久)