そして、人数の多い団塊世代の登場です。この世代が若い頃に熱中したのは教養主義に対するアンチテーゼ系の作品で、その代表作が『赤頭巾ちゃん気をつけて』(69年)。これはサリンジャーから村上春樹へとつながる青春小説の王道をいく内容で、その後の小説界で「ぼく」という一人称が流行るきっかけとなった記念すべき一作です。主人公は69年に東大の入試が中止になったときの日比谷高校に通う男の子。社会の激流の中で思い悩む姿がデリケートに描かれていた。このときのナイーブな読者が、やがて厳しい社会に出て経済大国ニッポンへとぐいぐい引っ張っていきます。
80年代、彼らが仕事人として一番脂の乗りきった30代から40代にかけての時期には、『MADEINJAPAN』(87年)や『「NO」と言える日本』(89年)など、自分たちの成果を確認してくれる経済本が売れました。一方では、新人類と呼ばれる60年代前半に生まれた世代がサブカルチャーを盛り上げ、出版界では『構造と力』(83年)などが出てニューアカブームが起こったり、村上春樹や吉本ばななといった新しい感性を持った作家がヒットを飛ばします。
『大河の一滴』で癒やされ、『生き方上手』で「脳トレ」するお父さん
バブルの頃は『見栄講座』(83年)といった、自分たちの浮かれ具合を笑い飛ばす本をおもしろがる余裕があったけど、バブル崩壊後の喪失感は大きかった。
90年代は『もものかんづめ』(91年)、『磯野家の謎』(93年)といった軽めの本やアナウンサーやタレントが気軽に書いたようなエッセイがウケて、『五体不満足』(98年)、『だから、あなたも生きぬいて』(2000年)など、「愛がすべて」とか「命が大事」と訴える、ストレートに「感動」できるものが受け入れられる。『ハリー・ポッター』シリーズも含めて、このへんのベストセラーから、大人が読む本と子どもが読む本の境界がなくなった感じがする。