大企業の組織の歯車として細分化された職務を担っていただけ
現実の厳しさを垣間見せるエピソードだ。②も大企業出身者に特有の欠点だ。
大企業ではいろんな仕事をやってきたといっても組織の歯車として細分化された職務を担うケースが多い。
たとえば自分は人事のプロだと自負していても、それは大企業にのみ通用する専門性であって中小企業はそれだけては足りない。中小企業では人事部がないところもあり、人事・総務・経理など管理部門全般を任せられることが多い。ただし中小企業なので人事といっても採用から給与計算まで細かい仕事もあれば、清掃・備品処理など雑用という総務の仕事もある。そこまでは何とかできるとしても、大企業の人事部出身者は経理に詳しくない人がほとんどだ。
その結果、面接で「経理はできません」と言うと落とされる。あるいは入社後に経理まで任され、嫌になって辞めてしまう人もいる。
そうならないためには欠点を補うために経理の初歩の知識程度は事前に学習しておくべきだろう。経理に限らず、自分の専門領域に近い周辺の分野の勉強を心がけておくことが重要になる。
大企業から転職した先で「前野さん」「内野さん」と陰口叩かれるワケ
残りの3つはまさに「人柄」に関わる部分だ。③については大企業で要職を務めた人に多い。再就職支援会社の事業部長はこう語る。
「我が強く、プライドが高い人は、前職では部長、事業部長、役員だったという意識がどこかにあるので謙虚さに欠ける。その人は立派な人かもしれないが、新しい職場に入れば新入社員であり、若い人から指示を受けないといけない。しかし指示されることにプライドが許さない人もいる。たとえば大手ゼネコンで一級建築士の資格を持ち、現場のトップを務め、中堅の建設会社に転職した人がいる。面接当初からプライドが高そうだなと何となく感じてはいたが、案の定、自分のやり方を押し通そうとして、年下の41歳の社長とぶつかって、最後はケンカ別れのような形で辞めてしまった」
やはり専門性が高いというだけではダメなのだ。新しい会社に入る以上、ゼロからのスタートと胆に命じ、謙虚に若い人と接することができるマインドセットは絶対に必要だ。
前職の会社とつい比較してしまうという④のパターンは前職の経験が長い人ほど陥りやすい。エン・ジャパンの転職コンサルタント100人に聞いた調査(2020年8月12日発表)によると、「転職先で活躍できないミドルが行ってしまうこと」で最も多かったのは「前職の会社と転職先企業を比較して悪く言ってしまう」(59%)だった。続いて「前職の仕事のやり方を持ち込む」(55%)、「これまでの経験や実績をひけらかす」(53%)の順だ。
前職の会社と今の会社を比較して発言するのは、社長よりも従業員を敵に回してしまうことが多い。「前の会社では」とか、時折「うちの会社では」と言い間違えてしまう人を「前野さん」「内野さん」と、周囲から揶揄されることは以前からあった。
「前の会社ではこうやっていたから、そうすべきだと主張すると、従業員は自分たちのやり方を否定された気分になり、何をやっても反対する抵抗勢力になってしまう」(再就職支援会社事業部長)ことになりかねないのだ。
たとえば転職先の会社の仕事のやり方がアナログだからITを使って一気に業務改革を断行しようとすれば、必ず抵抗に遭う。その場合は「自分の知識・経験を若い人に徐々に伝授し、信頼を勝ち取ることから始めることが大事」(事業部長)という。