※本稿は、キム・ヨンソプ、渡辺麻土香訳『アンコンタクト 非接触の経済学』(小学館)の一部を再編集したものです。
「在宅勤務」は80年代に予測されていた
米国の未来学者アルビン・トフラー(Alvin Toffler)が書いた『第三の波』(The Third Wave, 1980)に、在宅勤務の話が出てくる。彼はこれを「エレクトロニック・コテージ」(Electronic Cottage)と呼び、知識労働者は自宅にいながらコンピューターや通信装備などを使って働けて、新しいネットワークも作れると述べた。1980年に出版された本の中で、20世紀後半から21世紀に到来する情報化社会と情報革命を予測したのだ。
在宅勤務(Work-From-Home)やテレワーク(Telework)は、アメリカやヨーロッパではすでに20世紀後半から行われており、1997年にはフランスの思想家ジャック・アタリ(Jacques Attali)が、デジタルノマド(Digital Nomad)という概念を著書『21世紀事典』(Dictionnaire du 21e siècle)の中で取り上げている。
21世紀に入ると、アメリカやヨーロッパなどでは在宅勤務やテレワークの経験がある会社員が急増し、デジタルノマドも広まった。アメリカの調査会社ギャラップ(Gallup)によると、アメリカでテレワーク(全てをテレワークにするのではなく、テレワーク形態を含む勤務)をする会社員の割合は、2016年に43%だった。
アメリカ統計庁によると、2005年から2015年までの在宅勤務の増加率は115%だった。カナダのITサービス会社「ソフトチョイス」(Softchoice)の調査では、「在宅勤務を許可する会社があるならば、現職を辞める意思がある」と回答した人は74%だった。確かに在宅勤務やテレワークに関するアルビン・トフラーの予測は当たっている。
IT先進国なのに普及しなかった韓国
しかし、韓国は例外だった。技術的な問題ではない。韓国では1984年にパソコン通信サービスが始まっており、90年代初頭から中盤までに全盛期を迎えていた。インターネットは90年代半ば以降、大衆化し始め、各家庭にもパソコンが置かれるようになり、90年代末には超高速インターネットが普及している。スマートフォンの普及率も世界最高レベルだ。それにもかかわらず、在宅勤務には消極的だった。