「大統領選テロ」の可能性
11月の米大統領選まであと1カ月となった。現在のところ、世論調査では民主党のジョー・バイデン氏が有利な状況となっているが、2016年の際も優勢が伝えられたヒラリー・クリントン氏は最後でドナルド・トランプ氏に敗北したことから、何が起こるかは分からない。
バイデン候補が勝利すると、対中国ではトランプ大統領同様に厳しい姿勢で臨むと言われているが、対イランでは2015年のイラン核合意に戻ることを表明しており、中東を巡る情勢は大きく変化する可能性がある。
一方、最近、テロリズム研究の世界では、今回の大統領選挙を巡り一つの懸念が広がっている。それは、近年欧米諸国で台頭する、暴力的な白人至上主義などの極右思想を掲げる組織や個人が、大統領選挙に合わせてテロを起こすことだ。
米当局も相次いで危険性を指摘
米南部貧民救済法施行機関(SPLC)は3月、白人至上主義組織の数が過去3年間で55ポイント増の155組織に達し、そのうち大量殺戮による多文化社会の崩壊を目指す「暴力的過激主義」を唱える組織の増加が顕著になっていると指摘した。
また、米国国家テロ対策センター(NCTC)のラス・トラバース元長官は8月、米ヤフーニュースのインタビューに応じ、現職のトランプ大統領が敗北すれば、同大統領を支持する暴力的な白人至上主義者や極右組織などが国内でテロを活発化させる恐れがあり、今後の世論調査でトランプ大統領敗北が濃厚になれば、大統領選前でも暴力的な活動が活発化する可能性を示唆した(*1)。
米国務省も6月、2019年版の最新のテロ年次報告書を公開し、イスラム国などイスラム過激派の動向に触れる一方、反イスラム、反ユダヤ思想を掲げる白人至上主義者によるテロ事件が増加傾向にあり、欧米各国にその脅威が拡大していると懸念を示したが、これまで以上に白人至上主義テロを強調している。