象徴となった2つの大規模テロ

こういった暴力的白人至上主義が、なぜテロリズム研究者や治安当局者の間で深刻な脅威と認識されるようになったのか。それには一つに、昨年3月にニュージーランド・クライストチャーチで発生したモスク銃乱射テロ事件がある。

この事件では、オーストラリア人の当時28歳のブレントン・タラント(Brenton Tarrant)容疑者が車でモスク2カ所を訪れ、金曜礼拝のため集まっていたイスラム教徒らを無差別に銃で襲い、50人以上を殺害した。タラント容疑者は、犯行前に「偉大なる交代(Great Replacement)」と題するマニフェストを「8chan」と呼ばれるネット掲示板サイトに投稿。白人の出生率の低下を問題視し、欧州各国を訪れた際に“白人の世界が移民難民に侵略されている”と危機感を抱き、反イスラム、反移民など強い排斥主義を覚えるようになったと述べている。

タラント容疑者は移民・難民へ寛容なドイツのアンゲラ・メルケル首相やロンドンのサディク・カーン市長を非難する一方、トランプ大統領を「白人至上主義のシンボル(Symbol of white supremacy)」などとして称賛。さらには、ノルウェー・オスロ銃乱射事件を実行したアンネシュ・ベーリング・ブレイビク(Anders Behring Breivik)容疑者から強い影響を受けたと明らかにした。

ブレイビク容疑者とは、2011年7月、ノルウェーの首都オスロにある政府機関を爆破した後、近くにあるウトヤ島で労働党の青年部を狙って銃を無差別に乱射し、77人を殺害した人物だ。同容疑者もネット上に公開したマニフェストの中で、イスラムから自国を守ることは使命であり、多文化主義を貫く政権に強い不満を抱いたと明らかにしている。

国境を超えて連鎖するモスクやシナゴーグ襲撃

タラント容疑者やブレイビク容疑者には、国際協調主義や多文化主義などリベラルな考え方を否定し、暴力的な手段を使って自らの世界観や文化・伝統を守ろうとする防衛的動機がある。そしてその後、タラント容疑者を模範とするようなテロ事件が連鎖反応的に各地で起きた。

2019年4月の米国・パウウェイシナゴーグ襲撃事件、2019年8月の米国・テキサス州エルパソ銃乱射事件、2019年ノルウェー・オスロ近郊バールムモスク襲撃事件、2019年10月ドイツ・ハレシナゴーグ襲撃事件などの実行犯たちは、「タラント容疑者から影響を受けた」、「聖なるタラント容疑者から抜擢ばってきされた」などと主張した。