タイに逃れたロヒンギャが売っていた、名古屋のママチャリ
2015年、ミャンマーとの国境沿いに位置するタイ北西部の街メーソートにイスラム系少数民族「ロヒンギャ」の難民取材に行った。そこで「ママチャリ」という言葉を耳にして、驚いた。
これまでも、セルビアのバスのラジオから浜崎あゆみの歌が流れてくるなど、思いもよらない場所で日本の文化に触れることはあった。そして、ここメーソートのとある自転車店では大量のママチャリが並んでいた。その店はミャンマーから逃れてきたロヒンギャの男性、カマルさん(仮名)が営んでいた。
UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によると、世界では少なくとも約1000万人が無国籍の状態にある。たとえ迫害される状況下であったとしても、パスポートなどがないため、合法的に国境を越えることができない。そのため、命を危険にさらしてでも、高額な代金をブローカーに支払い、船などで国外脱出を試みる人が後を絶たない。
ロヒンギャの人々も無国籍とされ激しく迫害されてきた。差別、殺人、放火、レイプなど、暴力的な民族浄化を受けてきたのだ。多くはミャンマーの国外へ逃げたが、カマルさんもその1人だった。ママチャリは日本の名古屋に逃げた兄から中古のものを輸入し、修理して販売している。