今年9月、米マイクロソフトCEOのスティーブ・バルマー氏は、「新たな効率性」と題し、自社の長期戦略に関するメッセージを発信した。その冒頭で、「新たな標準(ニューノーマル)」に言及している。
ニューノーマルという語は、世界最大手債券ファンド・米ピムコのCEOであるモハメド・エラリアン氏が、サブプライム危機を予言した著書の中で、その後の経済状況を表現するのに使ったものだ。バルマー氏は「ニューノーマル」を、現在の経済状況の変化をうまく語った言い回しだと指摘している。
エラリアン氏のいうニューノーマルとは、「景気が回復しても元通りの経済水準にはならない」というものだ。もちろん、米国家経済会議委員長のサマーズ氏が「米経済は危機前の水準に戻る」との見通しを述べるなど、米国内でも反論の声はある。とはいえ、米国は景気後退が収まりつつあるものの、個人消費は冷え込んだまま。低い経済成長と10%を超える高失業率の状態がまさに“新しい常識”になりつつあることは否定し難く、マイクロソフトのようにニューノーマルを見据えた経営計画を立てる企業が相次いでいる。
エラリアン氏は、今後、新興国の消費者需要が活発化して世界経済の成長エンジンとなる結果、米国経済の影響が薄れていくとも述べている。つまりこの変化は、米国から新興国への「消費権限委譲」を示唆しているわけだ。ニューノーマルが今後の「ノーマル」となることは、世界経済の勢力図が大きく変わることでもある。