共和党にもバイデン支持者が増え始めている

連邦軍の投入には野党民主党ばかりか、与党共和党や国防総省内からも反対の声が上がった。ホワイトハウスでも、マーク・エスパー国防長官と米軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長が米軍の動員に異を唱えて説得に当たった結果、大統領は何とか思いとどまったという。

トランプ大統領は「法と秩序」というフレーズを好んで使うが、デモ鎮圧に強硬姿勢を示す最大無二の理由は、20年11月の大統領選挙に向けて己を「法と秩序の大統領」「秩序の回復者」とアピールするためだ。抗議デモの最中、ホワイトハウスからほど近いセント・ジョンズ教会にわざわざ徒歩で出向いて、教会前で聖書片手にメディアの撮影に応じたのも、「福音派」と呼ばれる自らの支持基盤の宗教保守派にアピールする狙いがあったと言われる。

このとき平和的に抗議活動していた人々を催涙ガスやゴム弾で強制排除していて、迷彩服を着て教会に同行したミリー統合参謀本部議長は「私があの場にいたことは国内政治への軍の関与という認識をつくり上げてしまった」と、自らの行動を悔いて謝罪した。

米軍は一貫して政治的中立を保つことで世界最大の民主主義国家の守護神として国民の信頼を得てきた。ところが、軍の最高司令官であるトランプ大統領は、「再選」という自らの野望のために米軍さえも政治利用しようとした。米軍と国民の信頼関係さえも平気で分断しようとしたのである。

国民に銃口を向けることをためらって最高司令官の命令に従わなければ、軍のシビリアンコントロールは崩壊する。かといって命令に従って平和的な抗議デモを力で鎮圧すれば、アメリカが非難してやまない天安門事件の再現である。どちらに転んでも分断の傷口は広がって、米国の民主主義は存続の危機に立たされることになるのだ。

トランプ政権は発足以来、閣僚や高官の解任や辞任が相次いで、発足3年半にして閣僚クラスが2回転以上も入れ替わっているという。それだけ愛想を尽かして政権を離れた人が多いわけで、ジョン・ボルトン元大統領補佐官のように暴露本を出版する人も出てくる。シリア駐留米軍の撤退に抗議して辞任したジェームズ・マティス前国防長官(退役海兵隊大将)も、抗議デモをめぐるトランプ大統領の一連の言動を痛烈に批判している。

「アメリカ軍のすべての将兵は、アメリカ国民をアメリカの敵から守るために命を投げ出すことになっても戦うことを憲法上誓約している。そのようなアメリカ軍を憲法上の権利を擁護しようと抗議運動に参加している国民に差し向けるとは何事か!」

「トランプ氏は私の人生でアメリカ国民を1つにまとめようとしない、あるいは団結させようと見せかけもしない、それどころかアメリカ国民を分断させようとしている初めての大統領だ」

民主党のオバマ前大統領、クリントン元大統領、カーター元大統領など歴代の大統領からも政権批判が相次ぎ、オバマ前大統領は「本当の変化には抗議だけではなく、政治も必要。変化をもたらす候補者を確実に当選させるように組織化していかなければいけない」と訴えた。

大統領経験者が現職リーダーを正面切って批判するのは異例だが、同じ共和党内でもジョージ・W・ブッシュ元大統領やミット・ロムニー上院議員らが、20年11月の大統領選挙でトランプ大統領の再選を支持しないと表明した。同じ共和党重鎮のコリン・パウエル元国務長官も、トランプ大統領の抗議行動への対応は「憲法から逸脱している」と厳しく批判し、大統領選挙では民主党のジョー・バイデン前副大統領を支持すると言い切った。

また、歌手のテイラー・スウィフト氏も「就任以来、白人優位主義と人種差別の火をたきつけてきた」とトランプ大統領を批判、「11月に投票によってあなたを退陣させる」とツイートした。彼女のツイッターのフォロワーは8600万人。影響は決して小さくないだろう。

アメリカの新型コロナウイルスの感染者数は250万人を超え、死者数は12万人を超えた(20年6月29日現在)。トランプ大統領は事態を軽視して初動を誤ったとの批判もあるし、感染対策をめぐるニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事とのバトルではポイントを失った。ただし、誰が大統領でも感染拡大を防げなかったという見方もある。従って、トランプ離れ、反トランプの流れを加速した最大の理由は、やはり暴行死事件や抗議デモに対する自身の常軌を逸した言動なのだ。