一時は投資総額が数百億円、数千億円とも噂された為替市場のミセス・ワタナベ。FXブームに乗った日本の主婦たちの異名だ。相場の大逆流に飲み込まれたとき、彼女たちは……。

「2005年から07年度はずいぶん儲けてたんですけど……昨年1月までは、FX(外国為替証拠金取引)はほんとに凄かったんですよ」

市井昌代さん(仮名)53歳の場合●名古屋在住。夫(55歳)は単身赴任中。子供2人はすでに独立。2005年からFX投資を開始したが、失敗。投資信託でも大損。「今さらやめられない」と巻き返しを狙う。
市井昌代さん(仮名)53歳の場合●名古屋在住。夫(55歳)は単身赴任中。子供2人はすでに独立。2005年からFX投資を開始したが、失敗。投資信託でも大損。「今さらやめられない」と巻き返しを狙う。

愛知県名古屋市内の喫茶店で、筆者の前に腰掛けた市井昌代さん(仮名、53歳)。持ってきたカバンから、テーブルの上に薄茶色の封筒の束がバサリと広がった。膨れ上がった封筒の表側には、どれも地元の税務署の名が入っている。

「パソコンの画面上でしか儲かっていないのに、ここ1~2カ月で120万円以上税金を取られた。現金化してなくても、画面上の儲けから税金を計算するんだって。あちこちに相談したけど、ダメ。もうほんとに腹が立って。新聞でFX投資家を保護する法案のことが出ていたけど、早く通ればいいなあ」

どうやら、確定申告を怠っていたご様子。一時は1000万円以上の利益を上げていたというから、ペナルティを考えただけで空恐ろしい。取材中、何度も、「そちらは税務署と関係ないでしょうね?」と念を押すのも無理はなかった。

割り増しされた税金3年分に加え、08年は何と1000万円超が吹き飛んだ。ここ数年、地方に単身赴任中の夫(55歳)はまだこのことを知らない。堅い大企業に勤め、投資そのものを嫌悪している夫に「とても言えませんよ」と身を硬くするが、「悔しい。今さらやめられますか?」と躍起になっている。

「土・日以外はパソコンから離れられないから、週末には温泉でリフレッシュする」という市井さん。事業で成功した実父から毎年前借りする遺産100万円を元手に、4年前からFX投資を始めた。

「メールについていた広告で、“商品券がもらえる”という謳い文句に釣られたんです。主婦ですよねえ」