家族の名義で100万円ずつで口座を開設した。ドル・円を取引する。朝は4時半に起きてパソコンを開け、為替変動のチャートを見ながら作戦を練る。新聞は地元紙の一紙だけじっくりと読む。毎日のパートの就業時間中も、デスクの下の携帯電話でチラチラと相場をチェック。
どれだけ残業しようと、自宅に戻ってからは、入浴の時間以外は夜12時~2時頃までパソコンと首っ引きだ。子供2人はすでに独立。家事などそっちのけだから、当然家の中は「ぐちゃぐちゃ」。
「最初はやり方が全然わかんなくて、1日5000円稼いだくらいで喜んでたんですが、画面を見ながら、24時間フリーダイヤルで証券会社の人に徹底的に聞いたんです。自分で本を読んで勉強するよりもずっとよくわかります。そういう他人の迷惑を顧みない人じゃないと、FXなんてできっこないですよ」
その甲斐あってか、1年以上経つと、チャートをじいーっと見ていればその後の動きがわかるように。証券マンのアドバイスよりも当たるようになった。
急激な円安に乗じて大儲け。取引業者や口座も、多いときは10社、10口座以上あったから、一時はスワップポイント(2国の通貨の金利差でつく儲け分)だけで1日1万2000円稼げた。「ホクホクだったんですよ」。当時の手帳にはその日ごとの稼ぎが6万数千円、7万数千円などと蛍光ペンで書き込んである。1日30万円以上を稼ぐ日もあった。
「夜中もふっと目が覚めて、ケータイで儲けを確認して、ふふっと笑ってまた寝るとか(笑)」
しかし、08年2月末から状況が一変する。いわずとしれたサブプライム問題と、それに伴うアメリカの景気後退への懸念が急浮上した。数日間に5~6円という凄まじい円高の進行中に、円安を見込んで大きく賭けていた市井さんは、この頃に限ってチャートのチェックを怠っていたのだ。
「3月17日の月曜日でした。前週末に、しばらく口座を見ていなかった業者から警告メールがきたんです。ヤバイ! と思って追い金をネットバンクから各口座に振ったんですけど、朝9時にそれが間に合わず……一瞬で、涙も出なかったです。画面にゼロ。何これ、ポジション何にもない! みたいな」