対立屋の言動を変えることは「無理」

ここで強調しておきたいのが、対立屋は自ら扱いづらい人間になろうとしているわけではない、ということです。あらゆるパーソナリティは遺伝的傾向、幼少期の経験、文化的な環境という三つの基本的な要因から生まれますが、どの要因も成長の過程でコントロールできるものではありません。

大切なのは、彼らの言動を変えようとするのではなく、自分の言動を適応させることです。彼らに反省させようとしたり、過去のことをいつまでも掘り返したりするのは避けてください。いまどうすべきか、たとえば自分自身の将来にかかわる選択肢のみに集中するのです。そのうえで、自分のパートナーやチームの指導者、上司、地元のあるいは国家の指導者には対立屋を選ばないように気をつけましょう。

対立屋の多くが、ナルシストやソシオパスといったパーソナリティ障害の特性をある程度備えています。ナルシストやソシオパスはどこにでもいるものですが、極端な例は精神疾患とみなされ、『DSM–5 精神疾患の診断・統計マニュアル』というアメリカ精神医学会の診断マニュアルで取り上げられている10種類のパーソナリティ障害にも含まれています。

配偶者や同僚を下に置かないと気がすまない「ナルシスト」

ナルシストは、他人より上だとみなされること、他人より上位に立つことばかり考えています。ナルシストの対立屋は、配偶者、子供、同僚、隣人、上司、組織長など、自分が非難の標的とした相手を、しばしばおおっぴらに貶める発言をします。自分が上だと見せるため、他者を下に置かないと気がすまないのです。そうした理由から、彼らは政治に関心を持ちます。政治的な争いは、彼らが他のすべての人より優れているところを見せる機会を提供してくれるからです。

ただし、対立屋は一般的に、自分が立候補している職業に必要となる柔軟な政治的手腕は持っていません。そのかわり、彼らは人々の注意をそらして、常に非難の標的に目を向けさせるようにします。他のすべての人々に、自分は「あの酷い候補者」よりはましだと説得するのです。また、彼らは壮大な構想を持っています。彼らはしばしば、その構想は実現可能だが、それは自分が指導者になったときに限ると他人に思い込ませます。

対立を煽る言動のパターンを理解するのに重要なナルシストの特性には次のようなものがあります。

1 他者よりも上に立ちたがる 
2 壮大な構想 
3 無限の権力を持つという妄想 
4 他者への共感の欠如

ナルシストは心から自分や自分の構想を信じているので、一見とても魅力的で、信頼のおける、説得力のある人物に見えるかもしれません。ただし、彼らは、自分自身を含め、あらゆる人をだます傾向があります。彼らは必ずしも嘘つきではないのですが、自分の能力や構想については無自覚に誇張したり非現実的になったりします。ある大がかりな研究によれば、アメリカ人の6.2%ほどが自己愛性パーソナリティ障害を持っています。これはおよそ2000万人に相当します。