手軽にできる「休止呼吸法」と「解放呼吸法」
簡単にできる長息のやり方として、「休止呼吸法」がある。これは息を吐いて再び吸う前に息を止める技法だ。まず、ゆっくりと息を吐き、すべて出し切る。出しきったところで、今度は息を止め、心の中でゆっくり「ひと~つ」「ふた~つ」「み~っつ」「よ~っつ」と数える。少なくとも、「2つ」目か「3つ」目を数えてから息を吸うようにするが、最初はあまり長くは息を止めず、次第に長くしていくとよい(休止時間は、目安としては2~5秒)。ゆったりした一定のテンポで、自分にとって必要なだけ繰り返す。なお、息を吐き出すときには、口をすぼめて「ふーっ」と音を出すと、やりやすくなる。過呼吸やパニックになったときにも効果のある呼吸法で、臨床的にもリラックス法としても使われている。
息の吐き出し方に焦点を置いた呼吸法としては、「解放呼吸法」がある。まず、深く気持ちよく息を吸い、もう吸えないところまできたら、口とのどを広げて、息を吐き出す。ちょうどよい湯加減のお風呂で「あ~~」という声が自然に出る感じだ。息を無理に長く吐こうとはしたりせず、ただ解放するよう息を吐くのがポイントだ。2~3秒休んでから、また深く息を吸い込み、胸を空気で気持ちよく満たしたら、同じように息を吐く。息を吐き出すときに、肩をだらんと落としてリラックスするように心がけるとなおよい。これを2、3回くらい繰り返す。
ため息には「一息つく」効果がある
ため息
「ため息をすると幸せが逃げる」という。実際に幸せが逃げるのか検討した研究はまだないが、多くの人は、この言葉のように、ため息とネガティブな感情を結びつけて考えている。これは半分だけ正しい。「安堵のため息」という言葉もあるように、ため息はポジティブな感情とも結びついている。
ある実験で、参加者に本当は解けない難問に取り組んでもらったところ、いったん解くのを諦めて、別の解き方をし始める間にため息が生じることが観察された。ネズミも、電気ショックというストレス状況によりため息が生じるが、それは電気ショックから解放されたときだった。つまり、ため息は、先だってネガティブな状況があるものの、その後には状況の好転や気分転換といった「一息入れる」効果があるといえる。ため息の前で区切るか後で区切るかで、そのイメージがネガティブにもポジティブになるということだ。
私の研究室で行った実験では、呼気成分を分析するという名目で、それとわからないようにビニール袋にため息をするグループと普通に息を吐き出すグループに分け、その後の作業を比較した。その結果、ため息のような吐息をさせたグループは、高難度のパズルへの取り組み時間が長くなり、退屈な作業の継続も高まることがわかった。コロナ禍のような「息が詰まる」状況でも、「一息つく」だけで、やる気を取り戻し、幸せも呼び寄せられるかもしれない。
本記事で参照した研究の詳細は、下記の文献にあります。
姿勢
菅村玄二(2016).姿勢 春木 豊・山口 創(編)新版 身体心理学:身体行動から心へのパラダイム(pp.121-153)川島書店.
歩行
佐々木康成(2016).動作と歩行 春木 豊・山口 創(編)新版 身体心理学:身体行動から心へのパラダイム(pp.175-197)川島書店.
呼吸
髙瀬弘樹(2016).呼吸 春木 豊・山口 創(編)新版 身体心理学:身体行動から心へのパラダイム(pp.59-74)川島書店.
井上佳奈・山本佑実・菅村玄二(2016).ため息がやる気を高める:随意的嘆息が安堵と動機づけに与える効果 心理学研究、86(2)、133-143.
菅村玄二(2007).センタリング呼吸法 越川房子(監修)ココロが軽くなるエクササイズ(pp.92-95)東京書籍.