「背筋を伸ばす」と、気分の回復が早くなる
新型コロナウイルスの影響が長期化し、「新しい生活様式」が求められるなか、巷でもストレス対処や感情のコントロールへの関心が高まり、さまざまな情報が発信されている。ここでは私が研究している身体心理学の観点から、わりと簡単に実践できる日常生活上のヒントを提供したい。身体心理学とは、早稲田大学名誉教授であった故・春木豊氏によって体系立てられた「体と心のありよう」だ。身体を基軸とした感情制御に関する実験心理学がベースだが、その背景には禅、ヨガ、太極拳、呼吸法などの東洋的行法や仏教や道教の哲学もある。便宜的に、禅のキーワードである「調身・調息・調心」という言葉に沿って解説する。今回は「調身」と「調息」を取り上げたい。
調身:姿勢、歩行、表情からのアプローチ
「調身」とは「身をととのえる」こと。仏教では坐禅のときの姿勢を指すことが多いが、身体心理学ではもう少し広く捉え、姿勢だけでなく、表情、手足の動き、歩行なども含まれる。
背筋を伸ばす
テレワークになり、通勤がなくなって楽になったという声も聞くが、その分、増えたのが座っている時間だ。子どもの頃なら「姿勢を正しなさい」と叱ってくれる人もいたかもしれないが、他人の目がない自宅で長時間よい姿勢を保つのは難しい。
だが、「姿勢を正す」ことは、背筋を伸ばすというフィジカル面だけでなく、気を引き締めるというメンタル面も同時に言い表している。気分が落ち込むと頭をうなだれ背中を丸めやすいが、実際に猫背をすることでうつ気分が生じることは筆者らの研究でも繰り返し実験で確認されている。逆に、軽いうつ気分のときには、背筋をまっすぐ伸ばすと、猫背になるよりも、気分の回復が早いこともわかっている。
猫背になると、直接的に肺活量が少なくなり、呼気流量も低下するし、感情もネガティブになる。姿勢を正すことで、呼吸も深くなり、気分もいくぶんスッキリするかもしれない。禅が教えるように、身を整えることで、息が整い、心も整うということだ。