「数」が女性の存在を無視できなくしている

刑法改正が進んだ2010年代は、前フランソワ・オランド大統領が閣僚34人の男女比を同数にそろえ、フランス共和国史上初の閣僚パリテ(男女同数)を実現した時代である(2012年〜2017年)。司法大臣、社会保健大臣、女性の権利大臣、行政改革大臣に女性政治家が並び、2014年には「真の女男平等のための法律」の名の下、DV対策強化を含む男女格差是正の政策を続々と実現していった。続くエマニュエル・マクロン大統領は前任者の路線を踏襲し、現内閣でも、男女同率に近い構成を取っている(閣僚数は男性20、女性18)。

オランド、マクロン両大統領とも、大統領選挙の当初から、男女格差の是正を公約に掲げていた。彼らがそうしたのは、フランスの国家理念が「自由・平等・友愛」だからだけではない。より切実で、現実的な理由があった。

フランス大統領選は有権者による直接選挙で、投票率は毎回8割近くに及ぶ。2019年は約4710万人の有権者のうち、男性が2250万人、女性が2460万人を占めた。選挙意識に関する2017年の調査では、「投票に行く」と明言した有権者は男性71%、女性73%と女性が上回っている(出典:Insee、Cevipof)。国政の舞台でも女性議員は数を増やしており、現在二院制の上院で31.6%、下院の国民議会で38.7%の議席を獲得。完全なパリテではないものの、軽視できない存在感を示している。これらは自然発生的な現象ではなく、1970年代から女性たちが粘り強く訴え、男性たちが意識を刷新し、政治の男女格差を無くそうと、国レベルでの制度改革・社会通念の進歩に努めてきた成果だ。

フランス国旗
写真=iStock.com/Ramberg
「自由・平等・友愛」よりも切実な問題があった(※画像はイメージです)

フランス社会は「男性優位」の価値観が強かった

フランス社会はもともと男性優位の価値観が強く、政治や経済の意思決定機関から女性を排除しようとする有形無形の障壁があった。政界を志す女性への日常的な揶揄やゆから、旧来の支配構造を維持しようとする男性たちの同調圧力まで。それに抗い励まし合い、問題意識を共有する人々が一人また一人と選挙に行き声を上げ、政治の舞台に立ち、社会が奪ってきた女性の権利を男性と同等に回復する制度を一つひとつ、根気強く実現していった。社会通念に関しては道徳教科での市民教育が大きく寄与し、制度面では2000年施行の「政治におけるパリテ法」が分水嶺になったという。この法律により、各党の候補者数を男女同数にすることを罰則付きで義務付けたところ、国政の女性議員率が20年間で4倍近く増加した。

そうして今、女性の有権者は当確を、政治家は政策を左右するだけ、フランス政界で影響力を築いている。DVをはじめとした家庭内の男女格差問題が、非常事態下でも変わらずに「国家の重要項目」と扱われるのは、平常時から意思決定の場に女性の声が響いているからだ。そしてその声は確かに、家庭という小さな密室で、誰かの安全と命が損なわれることを防いでいる。