10日で100人の男性が「心理カウンセリング」に電話
「外出禁止令の間も、家庭内暴力は緊急・最優先の案件であり続けます」
4月24日以降、フランス政府公式ウェブサイトのトップページには、女男平等(フランス語原文の語順のままに記す)・差別対策担当副大臣マルレーヌ・シアッパがこう語る動画が置かれている。DVの当事者・目撃者になった場合の行動を、副大臣自身がレクチャーする内容だ。
まずいち早く、前述の方法のどれかで通報をする。状況に応じて警察が介入すると、被害者は専用施設か、政府が外出禁止令期間用に借り上げた2万泊分のホテルに保護される。動画の最後では、4月6日に新設された心理カウンセリングのフリーダイヤル番号とともに、加害者側への呼びかけも行われた。暴力の発端になる怒りや衝動は、心理学の知見を取り入れて適切に向き合えば、やり過ごすことも可能だからだ。「どうか支援を受けてください。あなたの家庭に、暴力を入り込ませないために」。シアッパ副大臣は別のインタビューで、約100人の男性が開設後10日間でこのダイヤルを利用したと話している。
フランス社会では一般的に、家庭は「安心できる場所」との信頼感が強く、仕事や友人関係よりも優先される傾向がある。一方、その社会的なイメージゆえに密室化する危険性が高く、DVや虐待の温床になりやすいとも認められている。政府の公式発表によると、恋人・配偶者から暴力を受けた女性の数は年間平均で約22万人(出典:フランス政府DV対策公式サイト「暴力を止めよう」より、2012年〜2018年の平均数)。「家庭はすべての人にとって、安全な場所とは限らない」という前提は、社会で広く共有されているものだ。
外出禁止1週目で、DV案件は32%増加
そこでの暴力の芽を摘むために、妊娠初期のカップル検診や保育所・学校での保護者面談の機会を用いて、家庭と社会福祉との連携網が作られている。精神科医や心理カウンセラーの定期的な介入は公的支援としてセッティングされ、そのおかげで、家庭内のバランスが保たれているケースも少なくない。
そんな危ういバランスにある家庭が、社会との接点を失ったらどうなるか――外出禁止令の実施にあたり、DV・児童虐待関連の非営利団体や活動家はすぐSNSを通して、その危険性に警鐘を鳴らした。対する行政の反応も迅速で、具体的な強化対策の発表までに要した時間はほんの数日だった。
フランス政府のこの反射神経の良さは、コロナ禍以前から「家族」に対する良い意味での不信感がシェアされていたから、と言える。意思決定層が家庭という密室の実態を平常時から理解していたからこそ、非常事態が及ぼす影響にも、すぐに思いを致すことができたのだ。
実際、外出禁止令第1週目で、警察が介入するDV案件は32%も増加したという(出典:フランス内務省発表の数値)。もし前述の対策が採られず通報の手段が限られていたら、家庭内の悲劇はさらに激化し、より深刻な社会問題になっていたことだろう。