男子マラソン日本代表内定の大迫傑選手も筋トレしている
確かに急激に増えた筋肉が、投球や打撃のスムーズな動きの妨げになっているという見方もある。だが、上には上がいる。ニューヨーク・ヤンキースの投手で人類最速169kmの剛速球を投げるアロルディス・チャップマン投手(32)。MLBの中でも突出した、その極太の腕は、投げ込みや走り込みではなく、明らかにウエイトトレーニングで鍛え上げたものだ。
今回、筆者はNPBの12球団でトレーナーを務めたことがあるA氏に話を聞いた。
A氏は「NPBで体系的にウエイトトレーニングをしている選手は少ない。一部でウエイトトレーニングに積極的な選手・コーチがいますが、いまだに『たくさん投げて、たくさん走る』ことが重要視されている面が強く、トレーニング法は昔からあまり変わらない」と言う。
また、NPBではやはり走り込みと同じような理屈で、投手の「投げ込み」もあるという。1980~90年代にはキャンプで「1カ月2500球」「1日200球以上」といったノルマが普通にあり、「投げ込み」が常態化していた。その習慣や文化は今なお受け継がれているのだ。
NPBは国内で高い人気を誇っているが、NPBで大活躍してもMLBでは通用しないという選手は少なくない。グローバルスタンダードの知識とトレーニングがやはり必要ではないだろうか。
筆者は陸上競技をメインに取材をしているが、男子マラソンの日本記録保持者で、東京五輪の男子マラソン日本代表に内定している大迫傑(ナイキオレゴンプロジェクト・28)は近年、米国で本格的なウエイトトレーニングを実施するなど、スポーツ界のトレーニングは大きく変わってきている。筋肉を一定程度つけることが故障の予防とスピード強化につながり、マラソンの勝敗を決める最終盤でのスパートにも有効という考えが主流となりつつあるのだ。
一般人の場合は、上半身よりも下半身を鍛えよう
では、スポーツ選手ではない、一般人はどうすればいいのか。もちろん、ウエイトトレーニングをするべきだが、プロのアスリートが上半身を鍛えるのを主眼とするのとは異なり、一般の人々は上半身よりも下半身の意識を大切にすべきだろう。
人は、筋肉は使わないと老化のスピードが速まる傾向がある。上半身は休日でもそれなりに使う機会はあるが、下半身は油断するとほとんど使わないということがある。そのため下半身の筋力低下が起こりやすいのだ。
加齢によって筋肉量の減少は加速していく。大腿四頭筋(太腿前面の筋肉)は80歳になるとピーク時に比べて半分程度にまで激減するといわれる。下半身の筋力が衰えると、ちょっとした段差につまずくことが増加し、転倒のリスクも高くなる。外に出るのが億劫になると、ますます出歩かなくなり、さらに筋力低下を招くという“負のスパイラル”に陥りやすい。
また足は血液を送り出すポンプのような役割をしていることから、「第2の心臓」と呼ばれている。下半身を強化することで、全身の血液循環も良くなっていく。意識して下半身を鍛えるべきだろう。まずは散歩からでいい。下半身を積極的に動かす習慣をつけてほしい。
ただし、筋肉量を増やすという意味では、ウオーキングよりもランニング。ランニングよりも筋トレ(スクワットやランジなど)のほうが有効になる。ぜひ参考にしていただきたい。